第12話 上村 友貴乃

 この調子で睦希に会うエピソードになったらよかったのに。そうはいかなかった。


 夏手前のこの時期に体育祭が行われる。体育祭といえば、運動神経が良い人限定の催事だ。僕は運動神経が抜群に良いわけではない。なので積極的な参加の役割は他に譲って、教室で休む。僕の学校の体育祭は学校のいたる施設(主に体育館と校庭)で行われるため、それぞれの担当競技さえ、場所に行ってこなせばあとは自由なのだ。クラスに一人、青のクラスTシャツがぽつんといる。それだって立派な体育祭の参加である。


 アニメを見ようか、勉強しようか悩んでいると赤いクラスTシャツの子が僕の隣に来た。彼女は上村 友貴乃カミムラ ユキノ。音楽部の副部長だ。まじめな性格で人と話すのは苦手にしているタイプだったと思う。確か結花と睦希と同じクラスで一緒に行動していたと思ったが。


「どうした?結花と睦希は?」

気さくに話しかけた。

「競技に行った。私はもう終わって一人なの。」


「そっか」

彼女はトークテーマがあるわけではないようだ。僕が話をつづけたほうが良いのだろう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る