第9話 遠矢 睦希 その2

 部費をしれっと使って、音楽部のパーティーでも開いてやろうかと思った。しかし部費はそう簡単に使えなそうなので、ひとまずみんなを一斉に集めることはしないことにした。


 とりあえず一バンドずつ声をかけていこう。


 そうやって僕の放課後行脚が始まった。

 行脚といっても日常会話するだけだからなんの難しさもないが。



 そんなこんなで2年生に学年が上がる。

 音楽部の同学年全員と話したことがあるのは僕だけという存在になった。

 やったね。



 そんなあくる日の放課後

「リーダーって最近くる時間短いよね。」

 睦希が冷たい目を向ける。確かに放課後行脚と委員会活動で自分のバンドにはなかなか顔を出していなかった。


「ああ。そうだったかも。まあライブないしいいでしょ。」


「そうね。」

 睦希が心なしか僕に冷たい気がするのはきっと気のせいではないだろう。この人は心を許している人には正直に対応している節があるように思う。それでいうと僕のなにに反応したのだろう。聞くところによると、僕がいないほうが男子陣との話が盛り上がるらしい。それならいなくても全く問題ないだろう。


放課後の教室の椅子に座って睦希のことを考えてみる。

そうだ、最近2人で遊ぶ機会がなかった。それで2人の距離感を僕が図りかねているのかもしれない。


「睦希、カラオケ行こうよ」


「うん、行こう。」

睦希の返事は内容とは裏腹に冷たい空気を帯びていた。




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