クラスメイトたちは……

 午前の訓練を終わらせた騎士たちと勇者一行は食堂にて昼食を頂いていた。


 最近では騎士たちは勇者一行に抜かされたステータスを抜かし返し、積み重ねられた技術で遅れを取らないように。勇者一行はさらにレベルを上げてステータスを伸ばしつつ、ウル曰くまだまだな技と駆け引きを学ぶために日々特訓している。


「よし、俺はもうそろそろ行く」


 勇者一行は勇者一行の括りで、昼食を食べていたが、いち早く食べ終わった翔は立ち上がり、そのすぐあとに少量であったためにすぐに食べ終えた優花と一緒に食堂を出ようとする。

 今日も依頼をこなしつつ、椿の情報を少しでも得ようとギルドに向かおうと考えていたが、


「宇都宮くん。ちょっと待ってくれないかな」


 高円寺 光がそんな翔を呼び止めた。


「……なんだ、高円寺。俺は今からギルドに行くんだが」


「うん。それはわかってるよ。でも、その前にいいかな?」


 翔は光が椿のことについて聞くつもりだとわかった。

 実は本当に目の前で、しかも自分を庇ってやられた椿のことを光と気にしていたのだ。だが、


「その件についてはお前は気にする必要はないと言ったはずだぞ」


 翔は事前に光の協力は必要ないと断っていた。

 理由は単純で、光までそっちに手を出し始めたら、クラスメイトたちに余計な心配をかけさせないためである。


 翔は自分一人で何かをしてる方が、優花に余計に心配させるとわかっていたので、話したが、他のクラスメイトまで椿の捜索について詳しく話すつもりは無い。


 光は最初はエミリーに協力しようとしていたので、椿のことは翔から「俺が何とかするから」と直接言ったこともあり、引き下がっているものの、光は今でも椿のことをなんやかんや気にしている。


 自分を庇った相手なのだから、生きて一緒に日本に帰りたいという思いがあれば、生きてなくとも、せめて遺体や遺品は持ち帰りたいと思っている。


「高円寺、お前はお前がやるべきことをやればいいと思ってる」


「でも、俺にだって手伝うことは……」


「手伝うなら、クラスメイトを見てくれ。こちらは変に大人数を用いて解決するような問題じゃないからな」


 翔は光にそれだけ言うと優花と共に食堂から出ていった。


 光は渋々翔の言葉を受け入れ、クラスメイトたちを励まし、支え、自分の訓練もし、今まで過ごしてきた。

 だが、光にだって思うところはあるのだ。これが勇者としての自分の役割だとはわかりつつ、自分を庇った人を心配しない理由にはならないのだから。


「光。宇都宮が何してるのかは知らねえけどよ。お前の頑張りはみんなが知ってることだからよ」


 平一の言葉に光は「そうだな」と返事してクラスメイトを見る。

 この世界では勇者である自分がリーダーなのだから。もっとしっかりしないと。そう思い周りを見る。


 クラスメイトたちは不安そうな表情を隠そうともせずに光を見るものの、


「みんな、明明後日には第一王子が帰ってくるそうだ。今日の訓練はもう終わらせて第一王子帰還に向けて、エミリー様を出来る限りみんなで手伝おう!」


 第一王子からは勇者一行全員を帰還時に一目見たいと手紙には書いていたそうだが、椿がいないので一人欠けた状態で会うことになる。


 出来ればそれまでに椿の手がかりを手に入れたかったのが、今は仕方がないと割り切り、エミリーの手伝いに全員で向かう。その場に、翔と優花以外にもう一人、居なくなっていることにも気付かずに。



 □■



「で、なんのようだ?」


 一方、ギルドに向かっていた翔と優花だったが、目の前にとある人物が現れ、二人を足止めしていた。


「なんのようって酷くない?一応、これでも宇都宮くんを心配して来たんだけどなぁ」


「俺はこれでもお前のことを評価している。そんなお前が意味もなくこんな場所に現れるとは思っていない。もう一度聞くぞ、なんのようだ?七瀬」


 翔と優花を足止めしていた人物、七瀬 蕾はそんな翔の言葉に心外だなぁという表情を浮かべた。


「まあ、私がなんの用事もなく宇都宮くんに話しかけることが無かったし、しょうがないかもね。実際、今回も用事がある事だし」


 蕾もそうそうに話して、帰るつもりだったのか、あっさりと用事があると言う。


「それで?はやく要件を言え」


「せっかちだなぁ。要件はね、進捗はどうかなぁって。上里くん捜索の」


 翔は誤魔化そうとも思ったものの、嘘感知を所有している蕾の前では無力だと理解し、白を切るのをやめた。


「情報はない。お前こそ、どうして上里捜索がわかった?」


「ふふ、実は最近気配遮断の技能身につけてね、最近何かと怪しい宇都宮くんのこと付けてたの。私も上里くんのことは気になってたしね」


 流石に行動が怪しすぎたかと反省する翔だが、いつの間にかストーキングされていたことにも驚愕する。


  「七瀬、日本に帰ってもストーキングはするなよ?」


「ひ、酷い!確かに技能的にストーキング出来そうだけど、するつもりはないからね!?」


「……最近の行動を振り返ってみろよ。主に俺に対する」


 明らかにストーカーになりそうな七瀬に忠告しつつ、


「上里の情報はまだ無い。目撃情報もな。それにしてもお前も上里のことを気にしてたとはな」


「まあ、ね。彼が居れば私たちの生存率も上がるしね」


 なるほど。確かにそれならば蕾が翔に椿のことを聞きに来たのはわかるが、なぜこのタイミングなのだという疑問は残った。


「七瀬、ちゃん。なんで、今話しかけたの?」


 翔の後ろから単純な疑問を蕾にする。

 蕾は少し考えると


「ちょっと、未来が見えたから、かな?」


 未来。蕾の持つ技能未来感知は起こるかもしれない未来を見ることが出来る技能だ。

 応用と何も無く、場合によってはMPを消費するだけで見た未来が起こらない可能性もあるが、


「一応、信じてみることにしたんだ」


 翔は確信した。彼女は、何かを見たと。それも椿に関する何かを。


「宇都宮くん。気になってると思うから言っておくね。上里くんは私が見た限り、近い未来私たちの元に帰ってくる。勿論生きてる状態でね」


 確信はないけど、と蕾は言うと、城に帰って行った。


「ねえ、かけるん」


 不安そうに上目遣いで見てくる優花の頭を撫でながら、翔は蕾が言った言葉をゆっくりと考えることにした。


「近い将来、か。上里。お前は、誰にも気付かれないようにこの近くまでもう来てるのか?」


 優花にも聞こえないくらい、小さな声でそう呟いた。

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