王都に向かって
結局リーリエと花恋の巧妙な作戦により、椿たちは三人部屋になった。
まあ三人部屋の方が安いし、風呂も三人部屋からは個室についてるので、一人でゆっくりと出来る可能性が少しある。
まあ椿的に共用風呂よりも明らかに疲れそうだが。
実際食堂では、花恋とリーリエの二人が椿に食べさせようとして、三人は好奇の目に晒された。
風呂に入ったら、タオルで体を隠すことも無く花恋とリーリエが突撃してきた。
この大胆さはとこから来るのだろうか。
ちなみに転移して逃げた。
その後、寝る時になっても、二人は各自に用意されているベッドには入らずに、椿の寝ているベッドに入りこんで両隣から抱きついて寝ていた。
もちろんそんな状態で椿がまともな睡眠を取れるはずもなく
「大丈夫?椿」
「寝不足のようですが、ぐっすりと眠れませんでしたか?」
リーリエと花恋が寝不足気味の椿を見てそんなことを言ってくる。
本当に、森の中でも襲う場面は何度でもあったはずなのに、二人は町についてから始めてこんなアプローチをしてきて、椿も緊張してしまっていた。
まあ二人ともハメを外してしまっていたのだろう。
「まあ、寝不足といえば寝不足だが、不眠不休があるからな。1ヶ月程度なら問題なく起きてられる。心配する必要はないぞ」
本当は、二人があんなことするから、とか言ってやりたかった椿だが、この空気を悪くしたくなかったので、あえて言わない。
「わかった。でも、椿はステータスが高いとはいえ、無理しちゃダメだからね?辛くなったら遠慮なく私たちに言ってね」
「そうですよ。わたくしもリーリエも椿さんの仲間ですから!」
じゃあ今夜はもう同じ部屋でいいから別々のベッドで寝ようって言おうと思った椿だった。
「まあ、何はともあれ折角三人で出かけるんだ。余計な心配はしなくていい」
椿がそう言うと、花恋とリーリエはひとまず納得して再度歩き出した。
だが、そんな椿たちを複数人の男が取り囲んだ。
花恋とリーリエはあまり見てなかったので覚えてなかったが、椿が見た感じだと、数人ギルドで見かけた人物だ。
エプロンを着たり、どこかの店の制服を来てたりするので、店番中の一般人も紛れているようだ。
「……花恋ちゃんとリーリエちゃんであってるかな?」
「……?合ってますが……」
暫くして代表と思われる男が一歩踏み出して、問いかけてきた。
花恋は訝しみながらも問いかけに応じる。
花恋の返答を聞くと、男は後ろを向くと、こくりと頷いた。
それを合図に、男たちが花恋とリーリエの前に立ち、
「花恋ちゃん」「リーリエちゃん」
『俺と付き合ってください!!』
それぞれの男たちが花恋とリーリエに公開告白をした。
一方リーリエは少し厄介そうな表情をして、花恋はかなり困惑している。
リーリエ派の人物は脈ナシだと理解したが、花恋派の人達はもしかしてワンチャンある?と勘違いしてしまっている。
花恋も男たちの期待に満ち満ちた目がわかったのか、少し気まずそうにしている。
そんな花恋を見て男たちは何をとち狂ったのか、誰にしようか悩んでるように見えた。
「お願いだ!俺は、心の底から花恋ちゃんのことが好きなんだ!」
最初に前に出たリーダー格の男がそんなことを言うと同時に、後ろにいた野次馬たちも「そうだそうだ!」と声をだし始めた。
花恋はチラッと椿を見ると、野次馬たちに鬱陶しそうな視線を向けていた。
「あ、あの!」
なかなか収まらない野次馬たちを止めるために花恋は遂に大声を出して止めた。
この声を聞いて、野次馬たちは遂に花恋が誰にしたのかを選んだのだと思い、答えを待ち……
「わたくし、椿さんが好きなので!ごめんなさい!」
野次馬たちにとって絶望を突きつけた。
心優しい花恋だからこそしっかりと断ったのだが、野次馬たちのリーダーは納得しなかった。
「なんでだ!?俺はそこの男よりも強いし、頼り甲斐のある自信があるぞ!」
「え、えーと……椿さんよりも強い、と言われましても……椿さんよりも強い人がいる筈が無いですし……」
一件、好きな人の惚気のように聞こえるその言葉に耐えきれず、リーダーは腰に帯剣していた剣を抜いて。
「おい、そこのお前!花恋ちゃんを賭けて勝負しろ!」
ちなみにこの男は曲がりなりにも冒険者ランクAだ。最高がSSだが、それでもSになれるのも極小数で、Aでもかなりすごい。
それほどの修羅場を潜ってきたことになるものの、
「いくぞ!花恋ちゃん!俺がこの男に勝ったら付き合うことを前向きに考えてくれ!」
男は椿に特攻して、
「はぁ〜。面倒なのに絡まれたな花恋。【跪け】」
花恋と会話をしながら、片手間に男を無力化した。
「ぐは!」
「面倒だなんて……きっとこの人も真剣だったはずです」
「俺からしたら急に決闘しかけられて面倒でしかないんだがな」
椿は花恋と何気ない会話をしながらも、地面に倒れた男の顔を踏みつける。
「さて、俺の女に手を出そうとした罰だ。絶望しながら死ぬのと、苦しみながら醜くも生き残るか。お前の選択肢は二つある。選べ」
無慈悲にも宣告をした。
男は無言で椿を睨みつける。
ちなみに椿に殺す気はない。精々トラウマを植え付けるくらいだ。
こんなところで無駄に人を殺して、指名手配犯になるのは勘弁だ。
だから、
「この、俺は、まだ……」
そんな未だに諦めていない男の頭を掴むと、
「じゃあな。"絶対的悪夢ナイトメア"」
次の瞬間、男は廃人になった。
「えっと、椿?何したの?」
「うん?大したことはしてないぞ?ただ、こいつに今まで体験したことないような悪夢を体感させてあげただけだ」
軽く言ってのけるが、それがどれだけのことか椿はあまりわかってない。
まあ椿も権能も合わせてやっと使えてるので強力なことはわかってるが。
椿のあまりにもあんまりな攻撃に、他の野次馬は怖気付いて、その後、あまり椿に関わらなくなった。
そうして、なんやかんや賑やかな町で過ごし、町から旅立つ日が来た。
「さて、依頼でも受けて行くか」
現在椿は冒険者ギルドの依頼掲示板の前に立っている。
折角王都に向かっているのだから、王都方面の依頼でも受けて行こうかと考え、ここにいる。
ちなみに現在花恋とリーリエは残った野次馬の対処に赴いている。
結局椿が悪夢を見せても野次馬は出てきた。
そして花恋とリーリエは椿が対処するとやりすぎるとわかったので、二人が今は対処している。
それでも決死の覚悟で椿に向かってきた人は、容赦なく悪夢を見せている。
「っと。ちょうどいいのがあったな。王都への荷物運びか……」
討伐系じゃなかったら何でも良かった。
だから護衛依頼でも何でも受けようと思ったのだが、自分たちのペースで進める荷物運びはありがたかった。
馬でも借りれば、楽に進める。
「椿さん。こちらは終わりましたよ」
「おう。おつかれさん花恋、リーリエ。で、どうだった?」
「うーん。いつも通り暴走しかける人はいたけど、私たちも弱くないし、撃退は出来たよ」
暴走するのはいつもの事だ。
「じゃあ、以来も決まったし、王都に向かうか」
椿は依頼書を取って、カウンターに向かう。
そうして、依頼を受注して、馬と荷台を借りて、町を出ると、町から何人もの男が「行かないでくれー!」と花恋とリーリエに向かって言っている。
身体能力が高いやつは追いかけてくるので、適当に身体能力を低下させて倒した。
「じゃあ、ゆっくりだけど王都までもうすぐだ」
椿はその視線をエミリーがいるであろう王都に向ける。
「やっとですね!椿さんが恋焦がれている人に会えます!」
花恋はやる気を出して、リーリエも薄らと笑っている。
このまま行けば、あの日、椿が転移した日から約二ヶ月経った王都に辿り着くだろう。
「待ってろよエミリー」
椿はそう、誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。
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