町内観光

 結局、椿は詮索されるようなことは無かった。

 それはそうだろう。いくら驚いたとはいえ、ギルドは冒険者のことを詮索しないことを主義としている。

 そんなギルドがそれを破ってしまえば、その損害は計り知れない。

 もしも利益に目がくらんで、情報を寄越せと言っても、誰も入手できないのだから、それも無駄になる。

 悪魔族は普通に少し言われたくらいだったけど。


「それで、結局小金持ちになったんだよな」


「いいじゃないですか。お買い物するのですから、お金はあるに越したことはございませんよ」


 現在花恋と買い物デート中。本当は3人で出かける予定だったのだが、リーリエが二人で行ってきなと、譲ってきたのだ。

 どうも、リーリエは遠慮しがちなところがある。だけど、我を通してるところはあると思うので、問題は無いだろう。


「にしてもだな、いきなりこの金額は頭おかしい」


 どうやら鑑定結果的に日本円で5億円程の金を貰った。換金代が頭おかしい。

 これでリボーンの討伐報告までしたら卒倒するだろう。

 ただでさえ例の盗賊団を壊滅させたことにより、支部長がふらついていたのに。


「では、折角二人きりですし、デートを楽しみましょう!」


 花恋は楽しそうな笑顔を浮かべながら椿の手を引っ張った。

 そうして早速露店を見て回っているのだが、


「あ、これも美味しそうですね」


 花恋は現在露店に売られている食材を見て回っている。

 実は花恋。料理の腕は皆無だが、食材の目利きの才能は抜群なのだ。

 森の中にいる時も、そういうのは出来ていた。技能も無かったし、本当にただの直感なのだろう。


「これと、これください!」


 花恋は人間族の町で買い物するのが始めての筈なのに、スムーズに進めていく。これも才能なのだろうか?

 ちなみに素材の換金代は三等分しているので、花恋も二億近くのお金を持っていることになる。


 その後もこの後の旅に必要になりそうなアイテムを幾つか購入していく。

 性能に納得がいかないものは、花恋と椿の付与魔法等随時改良する予定だ。

 そして、現在は花恋の服を見るために洋服店に来ている。

 椿は店内に設置している椅子に座っているだけだ。

 この店の服は、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった。なので花恋は少し前から何種類かの服を見ている。

 さすがにいつまでも和服はまずいと思ったのだろう。

 ちなみに椿もこれから用に数種類は買っていたが、服に対する興味が薄いこともあり、そこまで積極的に買わなかった。


 椿の視線の先では花恋が今新たに服を手に取り、少し悩んでからその服も持って大量の洋服とともに会計に向かった。


「椿さん。もしかしてあまり楽しくありませんでしたか?」


 洋服店を出て、暫く歩いていると、花恋が急にそんなことを聞いてきた。


「……どうしたんだ?急にそんなこと聞いて」


「いえ、先程洋服店ではわたくしばかりがずっと店内にて商品を見て回っていましたので。椿さんはそうそうに終わらして、休憩なさっていたので、もしかして椿さんはあまり楽しくないのかな、と……」


 意外と見てるなぁと思いながら椿は花恋の頭を撫でる。


「ふぇ!?」


「別にそんなところまで気を使う必要ないんだよ。花恋は花恋の好きなようにしたらいい。花恋は楽しくないのか?」


「いえ、楽しいです。鬼人族の集落を出て、新しいものを沢山見て、今とても楽しいです。ですが、わたくしの同行を許してくれた椿さんが楽しめていないのなら、もっと椿さんを優先すべきかなと思いました……」


「ったく。花恋は考えすぎなんだよ。俺はお前が楽しんでくれることが一番嬉しいんだ」


「椿さん……」


「そもそも、論点が間違ってる」


 論点が間違ってるという椿の言葉に「論点、ですか?」と首を傾げる花恋に椿は「そう、論点だ」と言ってから言葉を続ける。


「花恋、お前は俺が同行を許したと言ったが、それは違う」


「え?でも、実際に……」


「お前が俺に付いてきたんじゃない。俺がお前らを奪ったんだ。あいつらからな」


 それは実際にあの時玄武にも言ったこと。

 椿は確かにあの時玄武に花恋達を「連れていく」ではなく、「攫っていく」と言った。


「椿さん……」


「だから、花恋たちは、好きなようにしたらいいんだ。それで何かトラブルが起きても、俺が全部解決してやるから、な?」


「はい!」


 椿の自信たっぷりの言葉に、花恋は満面の笑みで返事した。

 その後、椿と花恋は花恋が椿の手を握ったため、手を繋ぎながらリーリエと合流した。


「あ!花恋。何か進展でもあったの?」


「さあ?どうでしょうか?」


 面白そうに笑いながら言うリーリエに、花恋もまた微笑みながら言う。

 まあこの二人は普通に仲がいいのでこの程度で喧嘩にはならないだろう。


「じゃ、二人とも。今から宿でも取りに行くか」


 ちなみに宿代は椿が出す予定だ。

 てか、お金3等分にしたけど、基本的に椿が代金を払ってる。

 花恋とリーリエはそれぞれが欲しいものがあった時だけ使ってる。


 適当に良さげな宿を見つけて、中に入る。

 中はギルドよりも清潔感があって、一階は食堂になってるみたいだった。

 カウンターには、十八歳くらいの女の子が店番をしていた。


「いらっしゃいませ!本日は宿泊ですか?それともお食事だけでしょうか?」


「宿泊だ。食事と風呂付きで、とりあえず三泊する予定だ」


「三泊ですね。お食事とお風呂もっと。かしこまりました。ちなみにお部屋の方はどうなさいますか?」


 女の子は若干好奇心が含まれた目で椿を見てくる。

 綺麗どころを二人も連れた男が宿泊に来たのだ。もしかしたら3人で?と考えてるかもしれない。

 店内の食堂で食事をしていた他の客もこちらを見ているのが気配でわかった、

 椿は一瞬二人を見てから


「一人部屋一つと、二人部屋一つだ」


 すると、周囲と女の子がホッとした表情を浮かべた。

 さすがに女の子二人に手を出すわけでは無さそうだ、と。

 すると、


「ダメです。三人部屋にしてください」


 花恋が異議を唱えた。


「花恋。何言ってるんだ?俺が一人部屋、花恋とリーリエで二人部屋に入ればいいだろ。お前らは昔から仲良かったんだから同じ部屋でも問題ないだろ?」


「いえ、ダメです。わたくしたちは椿さんと一緒の部屋がいいんです」


 周囲の男は絶望している。

 なぜなら花恋程の絶世の美少女が、男と一緒の部屋がいいと言うのだ。

 きっとナニをするつもりなのだろう。


「とりあえず、ダメなものはダメだ。えらい静かだけど、リーリエもそれでいいよな?」


 そう言いながら、先程までリーリエがいた場所を見ると、リーリエはそこにはいなかった。

 どこに行った?と思いながらも嫌な予感がし、カウンターに目をやると、


「お客様!すみませんが、現在三人部屋しか空きがございません!」


 顔を真っ赤にした状態で店員がそう言い、リーリエに鍵を渡していた。

 おそらく、賄賂を渡したのだろう。


「やられた……」


 花恋とリーリエがハイタッチしているのを横目に見ながら、椿は崩れ落ちた。

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