時すでにお寿司
盗賊を掃除してから半日後、椿たちは遂に街の見える場所まで辿り着いた。
街まではまだかかりそうだが、3人の驚異的な身体能力をしてすれば、1時間程で辿り着けるだろう。
遠くから見る感じ、柵と塀で周囲を囲んだ小規模の街らしい。まあこんなところに態々来る人も少ないだろうから、それでもいいのかもしれないが。
椿たちは森の方から来たので、街道のある場所の真逆から来たことになるのだが、実はこの街、街道に面した場所に木でできた門があり、その傍には簡易的な小屋も用意している。おそらく門番の詰所かと思われる。
程なくして街に辿り着き、迂回した椿がそれを見て、小規模とはいえ門番を配置するくらいには規模があるのだろうと思い、情報収集と買い物は思ったより出来そうだと表情が綻んだ。
街を見て微笑む椿を花恋が見蕩れて、その花恋を見てリーリエは微笑んでいる。
「止まってくれ。身分を証明できるものを。それと街に来た目的は?」
門番風の男が椿にそう質問した。
規定通りの質問なのだろうか。どことなくやる気がない。最近この近くで魔王軍幹部が暴れてたと言うのに、呑気な人だと3人は思った。
椿は門番の質問に答えながら身分証明書みたいなものである冒険者カードを取り出した。
本当は、勇者一行であるという証明するものもあるのだが、あれはややこしそうなので今は出さない。
冒険者カードは、王都にいた頃に、自由時間があったのでその時についでに発行しておいた。
「食料の補給がメインだな。旅の途中で」
気のない返事をしながら門番は椿の冒険者カードを受け取って、直後に硬直する。
何かあったのだろうかと花恋とリーリエは不思議そうな顔をするが、椿はすぐに思い至った。
(こいつ、ステータスオープンしやがったな)
冒険者カードは名前と顔写真、そして冒険者ランクが記載しているだけの簡易なカードだが、右下にステータスオープンボタンみたいなのがある。
おそらくこの門番はそれを押したのだろう。
そして見たのだろう。全てのステータスが1万を超えている椿のステータスを。
もちろんこの機能は停止することも可能なのだが、その事をすっかり忘れていたのもあって、ステータスを見られてしまったのだ。とりあえず椿は咄嗟に誤魔化すために嘘八百を並べた。
「いや、実はな、少し前からステータス欄だけ壊れてしまってな。まあ俺は別に冒険者カードを使ってステータスを見るわけじゃないから困らないんだが……」
「こ、壊れた?いや、しかし……」
困惑する門番。当たり前だろう。冒険者カードが壊れることはあまりないらしいが、それでも時たまにあるくらいだ。その場合は冒険者カードに残っているバックアップ昨日でなんとか復元できるらしい。だが、ステータス表示だけが壊れるのは聞いたことが無いだろう。
「そうそう、壊れたんだよ。考えてもみてくれよ。俺がそんな指先一つで街を破壊できそうな化け物に見えるか?」
門番はその言葉を聞いて苦笑いしながら「それもそうか」と言いながらカードを返してくれた。
そんないけしゃあしゃあと嘘をつく椿を花恋とリーリエはジト目で見る。
実はステータス欄は壊れてなくて、本当に化け物だと知ったら門番さんは今度こそ卒倒するだろうと思ったから二人は黙った。門番さんの精神のために。
「はは、それもそうだな。ステータス欄だけが壊れるっていうのは聞いたことがないが、それでもこんなことがある以上、冒険者ギルドには報告しておいた方がいいだろうな」
哀れ、冒険者ギルド。
椿の咄嗟に吐いた嘘により今この瞬間に仕事が一つ増えた。
「さて、じゃあそっちの二人は……」
門番が花恋とリーリエに冒険者カードなりの身分証明書の提示を求めて二人に視線を移して、硬直する。おそらく花恋とリーリエの二人に見惚れているのだろう。
二人は謙遜なしに美少女だ。そんな二人に見惚れるのも無理はないと思いながらも、椿はわざと咳払いをする。
それに門番はハッとなって正気に戻り、慌てて視線を椿に戻す門番。
「実は、この二人はこの街に来る途中に冒険者カードを無くしてしまってな。この街で再発行するつもりだ」
その言葉に門番は納得したのか、なるほどと頷いていた。
門番はおそらくステータス欄がおかしくなった原因は何かしらのモンスターと戦い、その戦闘中に二人はカードを落としたのだと勘違いしてくれたようだ。
「なるほどな。まあいい。通っていいぞ」
「ありがとよ。ちなみに冒険者ギルドってどこにある?」
「ギルドなら入って暫く真っ直ぐに歩いたらそのうち見つかるよ。ギルドにはでっかい看板で目印があるからな。そうそう迷わないだろう」
「わかった。ありがとよ」
椿は礼を言いながら中に入る。花恋とリーリエも椿に続いて中に入っていく。その椿を門番は嫉妬と羨望が混じった目でずっと見てきた。
名前を確認しなかったので、町の名前はわからないが、中は思ったよりも賑やかだった。
無論王都程ではないが、露天も並んでおり、そこかしらから呼び込みの声や、白熱した値切り合戦の声が聞こえてくる。
こういう騒ぎは訳もなく気分を高揚させるものだ。椿だけでなく、花恋やリーリエもどことなく顔が綻んでいる。
そうして3人仲良く(おそらく)メインストリートを歩いていると、やがて大剣を模した看板が見えた。
武器屋にしてはなかなか大きいのでここが冒険者ギルドだろう。
王都の冒険者ギルドも同じような看板だったので、ギルドの看板はどこも同じなのだろうかと思いながら椿は改めて建物を見る。
よく見ると王都のギルドよりは二回りほど小さい。
「さて、じゃあ入るか」
中で起こるであろう面倒事を予想しながらも椿はギルドの扉を開く。
花恋とリーリエもそれに続いて中に入る。
中は酒場と共用になっていて、数名の冒険者が酒を飲んで食っちゃベッテル。
そこへ入ってきた綺麗どころを二人も連れたまだ若そうな少年一人。
だが、テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる冒険者がいると思ったのだが、案外みんな理性的で誰もちょっかいをかけてこなかった。
「ギルドって思ったよりも綺麗なところだね。酒場と共用しているにも関わらず、どこも散らかってないし」
「そうですね。椿さんから聞いた印象的に、冒険者は荒くれ者が多いと思っていましたが、少なくともここの冒険者はみなさん清潔さを保っているみたいですね」
リーリエと花恋の会話が聞こえたのか、冒険者たちは少し照れている。冒険者的に、清潔感のある人、すごくいいね!とでも聞こえたのだろう。
椿には関係の無いことだが。
カウンターには笑顔の男性が座っていた。
綺麗な女の人が座っているという期待はそこまでしていなかったものの、男が座ってるのは違うだろ……と思っていると、両隣から圧を感じた。
花恋とリーリエが椿の考えをある程度察したのだろう。少し怖い。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件は?」
ギルド職員が気を利かせて椿に話しかけてくれた。すごく助かる。
「素材の換金と二人の冒険者カードの発行をお願いしたい」
椿はそう言って冒険者カードを提示する。
現在の椿の冒険者ランクは最低のEだ。
ランクは依頼を達成することによって貰えるクエストポイントを貯めることによってランクアップできる。危険な依頼ほど貰えるポイントは多い。
椿はそもそも一つも依頼を達成したことがないので、最低のEランクなのだ。
「わかりました。では素材を出してください。お二方は少しだけお待ちください」
椿は空間拡張のポーチから、試練で出てきたモンスターたちの素材や、悪魔族のもの、そして森の中で遭遇した雑魚モンスターの素材を粗方取り出した。
「それでは、鑑定を始めます」
そう言って職員の男性は素材鑑定用の
この鑑定道具は優秀で、古代からあると言われている鑑定アイテムをなんとか複製して使っているのだが、なんと神話級のモンスターの素材ですら鑑定できる。
「それでは、鑑定の間に、お二方はギルド登録を済ませます。こちらの用紙に必要事項をお書きください」
必要事項と言っても、名前とか容姿を記入したりするくらいだ。
種族を書く必要も無いので、安心安全。鬼人族と妖精族という情報はどう足掻いてもバレることは無い。
「わたくしはかけました。リーリエはどうですか?」
「私も終わったよ。はい、これで大丈夫?」
二人は書き終わった用紙を職員に渡す。その時、偶然にも手が触れて、職員は硬直してしまったが、椿の微威圧によって、意識を取り戻すと、用紙を確認した。
「はい。わかりました。ではカードを発行しますね。こちらの
「わかりました。では、わたくしから」
そうしてまずは花恋が手を載せた。
このアイテムは手を置いた者を魔力を介して理解し、その者の情報をカードに組み込む仕組みだ。
やがて花恋の魔力が読み込まれ、カードが発行された。
リーリエも同じ要領でカードを発行する。
「では、ご説明させていただきます。このカードはあなたが冒険者であるという証です。壊れてしまったり、誤って破いてしまった場合は、バックアップ能力が備わっているので、再度同じ状態、同じランクから再発行できますが、紛失してしまった場合にのみ、最初から発行とさせていただきます」
この人の話しを花恋もリーリエも真剣に聞いている。
やがて、鑑定が終了した。
「鑑定が終了しましたね。では金額を見てきます」
そう言って職員が奥に引っ込んだ。
「椿さん、これでわたくしもまた椿さんの役にたてますよね?」
「ん、そうだな」
花恋は十分椿の役にたっているが、まだ花恋には言わない方がいいだろう。
それよりも
「どうした、リーリエ。さっきから難しい顔して」
「ううん。ただ、少し大丈夫かなって」
「ん?何が?」
「だって、椿が持ってきたのって九つの試練で出てきた凶悪なモンスターの死体や悪魔族の死体から剥いできた物でしょ?」
「そうだな」
「じゃあさ、とんでもない金額が出たりして、職員の人達発狂してないかな?」
リーリエに言われてやっと椿は気がついたが、時すでに遅し。奥から何人かが発狂する声が聞こえた。
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