VS. 魔王軍幹部 リボーン 再び
「玄武さん」
虎徹と慈雲を運びながら退避した玄武を花恋が迎えてくれた。
後ろには囚われていた鬼人族たちや、リーリエやフランクリン、そしていつの間に移動したのか、倒れていたはずの妖精族たちがいた。
ちなみに倒れていたはずの妖精族たちは雑に転がっていた。
「花恋か。この妖精族の人達は?」
「先程急にここに現れました。おそらく椿さんが転移させたのかと……」
玄武は花恋の言葉にもう驚かなかった。
椿ならできると何となく思ってしまったからだ。
「おいおい玄武さんよ。回復して怪我人を運んだなら、あの兄ちゃんの助力に行かなくてもいいのか?」
今も心が折れているだろう、鬼人族の一人が玄武に話しかけた。
普通ならここで助力に行った方がいいと思うが、
「いや、彼にとっては私の助力は足でまといにしかならないだろう」
玄武の言葉に花恋以外は絶句した。
玄武の力はみんなが理解している。その玄武でさえ足でまといにしかならないと言うのだ。
「さえ、俺たちは椿殿の戦いを静かに見守っていよう」
□■
椿とリボーンは対峙したまま暫く動かなかった。
やがて
「おや?あなたは……」
リボーンは椿の顔を見て何かを思い出した。
「ああ。思い出しましたよ。確か未熟な勇者の仲間でしたね。最上級魔法も使える。まさか生きていたとは!」
リボーンは両手を広げながら歓喜の声を上げる。
リボーンは今度こそ真正面から1VS1で椿を倒したいらしい。
「まあ消息不明になってから時間も少ししか経っていません。それほど違いは無いでしょうし、今回も私が勝たせてもらいますね」
そう言いながらリボーンは新たな人形を取り出してそれらを椿に放った。
その人形を見ながら椿は冷静に
「【死ね】」
口から【死ね】という文字が具現化し、人形に向かって飛んで行った。
そしてその文字に当たった人形は全て事切れた。
「な!?あなた、何をしたのですか!?」
椿の放った理解不能の攻撃はリボーンにとって未知のものだった。
そして未知のものであれば当然警戒する。
「闇属性の魔法"呪言"だよ。言葉に魔力を乗せて具現化し、その魔力に触れたものはその言葉の通りの事が強制的に遂行される。魂魄レベルでな」
つまり人形の無限再生も意味をなさない。
たとえ斬られても再生するのは魂魄が無地だからだ。魂魄そのものが死んでしまえばさすがに生き返らない。
そして、"呪言"の説明を終えた瞬間、椿はリボーン程度では目視することすら叶わない速度でリボーンの前まで移動すると、その顔面にドロップキックを放った。
「ぐべっ」
浮き上がったリボーンの動体を次は蹴り飛ばした。
「ぐふっ」
再度呻き声を上げながら飛んで行ったリボーンは、しかし自分の怪我を回復すると、再び起き上がった。
「なるほど。あなたもそれ相応に成長したようですね」
リボーンの威圧感が増していく。
どうやらリボーンも椿を淘汰する者ではなく、倒すべき敵と認識したようだ。
「じゃあ、まだまだ行くぞ」
椿はそう言って剣を装備してリボーンに斬り掛かる。
リボーンももちろん剣で対抗する。
横払いはリボーンに対応される。
なら下から斬りあげるのは、と椿は試行錯誤して様々な角度から攻撃を仕掛けるが、そのどれもがリボーンに対応されてしまう。
「どうやら、成長したと言っても技術 はまだまだと言ったところですね」
実際その通りだ。
椿はサキュバスとの戦闘も魔法メインで戦い、色欲の権能で自身を昇華してからは高いステータスによるゴリ押しでまかない通ってきた。
だが、リボーン相手ではゴリ押しは通用しなさそうだ。
「では、今度はこちらから。"絶対支配の呪詛"」
リボーンがそれを唱えた瞬間、椿の体が黒いモヤに包まれた。
「椿さん!」
離れた場所から戦いを見ていた花恋が思わず叫んでしまう。
傍から見れば椿が敵の攻撃により囚われてしまったように見えたからだろう。
だが、
「大丈夫だ」
椿はそんな理不尽すら超越する。
黒いモヤを強制的に払い、椿が平然と出てくる。
「ば、ばかな!なぜ無事なのですか!?"絶対支配の呪詛"は他の幹部ですらろくに抵抗出来なかったのに!」
そのリボーンの言葉に椿は呆れながら
「そんなの、俺がそいつらよりも上だったってだけだろ」
そう言い放った。
リボーンは絶望しながらも再度剣で攻撃を仕掛ける。
近距離ならば強力な魔法を使えば自分も巻き添えをくらいかねない。ならば魔法は使わない。しかも近接戦なら自分に理があると考えた結果だろう。
だが、
「"完全制御トレース"」
椿はそれを更に超える。
椿はリボーンと全く同じ技量の攻撃を、リボーンよりも速く、それでいて重い一撃を放つ。
「くっ!なぜ、先程まであなたよりも私の方が上手かったのに……」
「悪いな。お前の技、全部奪わせてもらった」
その言葉を完全に理解したリボーンはやけくそ気味に椿に剣を振るう。すると、油断したのか、椿の右腕は斬り飛ばされた。
「……は?」
あまりにも呆気なく片腕を奪えたことに拍子抜けをしたものの、次の瞬間
「"
椿が一言呟くと、リボーンの右腕も切り飛ばされた。
「ぎ、ぎぃぁぁぁぁぁぁぁ!」
右腕が損失した痛みでリボーンは絶叫する。
そして、右腕が斬り飛ばされたにも関わらず、平然としている椿を見て絶句する。
こいつに、感情は、感覚は無いのかと。
リボーンは慌てて自分の腕を拾うと、断面をくっつけて回復魔法で繋げる。
そして転がっている椿の腕を踏み潰した。
これでもう万全に戦えないだろうと思ったリボーンだったが、
「"絶象"」
失われた筈の腕が再生された。
「はぁ!?」
あまりにも常識外れな戦いをする椿にそんな素っ頓狂な声を上げるのも仕方の無いことだろう。
リボーンからしたら椿はもう得体の知れない化け物だった。
今までの戦いで既に魔界に帰還するためのMPは残っていない。
それでも十分に戦える量は残っているが、椿相手には何も出来ない。
人形は即座に殺される。
魔法はより強力な魔法で相殺されることは前回の邂逅からそうだった。
近接戦でも自分の動きを奪った椿相手に勝てるビジョンが浮かばない。
仮にダメージを与えても、全く同じダメージをリボーンに与えた上で、自分だけ部位欠損も回復できる。
「私が言うのもなんですが、化け物ですね」
さっきまでの鬼人族どもとは全然違う。
「飛ばされた先で、何を手に入れたのでしょう……」
思わず愚痴が零れる。
リボーンはこのままでは負けると判断し、唯一勝てる可能性のある手段に賭けることにした。
「禁域解放」
悪魔族、天使族番の限界突破を発動する。
「ようやく、禁域解放を使ったか。手間かけさせやがって」
椿の言葉は、まるでリボーンが禁域解放を使わせるために手加減していたみたいだった。
だが、勇者一行と離れた後、これからの戦いに向けて禁域解放を手に入れていたことが項を期し、今ここでこうして全力で戦えている。
「私は魔王軍幹部、リボーン。あなたを倒し、魔王様にこの世界をお渡しするために、私は戦う」
その言葉に椿は満足そうに頷くと、一歩近づいた。
「俺はただのどこにでもいる一般人だ。殺せるものなら殺してみろよ。王の奴隷がよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます