絶望を前に希望は現れる
リボーンとの戦いは苦戦を強いられた。
「その程度ですか?鬼人族と妖精族の力とやらは」
「くっ!」
玄武は悔しがっているものの、現状はあまりよろしくない。
妖精族の精鋭たちは既に力尽きて後ろの方で倒れている。
現在戦っているのは玄武と虎徹と慈雲、それにフランクリンだけだった。
「フランクリン殿。まだ行けますか?」
「ふぬう。まだいける、と言いたいが、そろそろ力尽きてしまうの……」
フランクリンは現在、秘術で全盛期の力を取り戻している。
だが、もちろん時間制限はあるので、どうしてもこれから先の戦いは苦しくなるだろう。
だから
「わしが倒れるまでに、なんとしてでも追い詰めて見せよう!」
現在、リボーンは玄武達さえ倒せれば、他の攻撃は来ないと思っているので、帰還分のMPを考慮せずに戦っている。
「威勢はいいですね。しかし、その程度で私を倒せると思わないことですね!目覚めよ、
リボーンはそう言いながら小さな人形を取り出した。
玄武たちはたかが人形だと思ったが、次の瞬間に人形は巨大化して、人間サイズになった。
「巨大人形か!"大炎球"!」
玄武が炎魔法を放つものの、人形は焦げてすらいなかった。
「無駄ですよ。いくら鬼人族でも鬼化も無しにこの人形にダメージを与えられるとは思わないことですね」
「玄武様。出し惜しみしている場合ではありますまい。覚悟を決めなされ!鬼人流抜刀術・木葉斬り!」
虎徹は呆然としている玄武に鬼化を促しながら人形の首を跳ね飛ばすことに成功する。
「ほう。鬼化しているとはいえ、魔法もない、ただの攻撃でよく私の人形を斬れましたね」
「長い年月受け継がれ、積み重なれた技術の前では、この程度造作もないことですな」
「それは素晴らしい。賞賛に値します。ですが」
すると、首を跳ねられた人形は再度起き上がり、首を元に戻した。
「……復活ですか」
「
慈雲も気配を消しながら、他の人形を不意打ちで倒していたが、すぐに復活したことと、気配を消しているとはいえ、生命そのものを感知する人形の前では気配を消してもそれは無意味なことで、慈雲もピンチに陥っていた。
「なら、わしも悪足掻きをさせてもらおうかの!"嵐呼ぶ妖精の風"」
妖精族に代々伝わる最上級風属性魔法"嵐呼ぶ妖精の風"制限時間も短いのに先程まで攻撃に参加しなかったのはこれの詠唱をしていたからだ。
だが、
「はい。残念でしたね」
その攻撃はあっさりと止められた。
「結界か……」
玄武は椿の結界よりは柔らかいと感じたが、それでも強力な結界だ。フランクリンの最上級魔法でも突破できなかった。
「玄武殿。すまぬな。わしはもう無理じゃ……」
フランクリンはそう言いながら脱落した。
「さて、妖精族も脱落しましたし、より絶望を味あわせてあげましょう!」
そうしてリボーンが指を鳴らすと、人形が強化されて、玄武達に襲いかかってきた。
「クソ!鬼化してもまだ足りないというのか!」
ちなみに今はリボーンは人形を操ることに集中しているので、リボーンに接近出来たら倒せたりする。
しかしその接近が人形に拒まれる。
「ほらほらー。早くしないと後ろで倒れてる方も手遅れになりますよ?」
「そんなものわかってる!限界突破!」
玄武はついに第二の切り札である限界突破を使用した。
「玄武様!短期決戦でいきますぞ!」
「わかってる!虎徹、慈雲。援護してくれ!」
そうして玄武は刀片手に、人形を切り伏せ、リボーンに接近する。しかし、
「残念。人形はまだまだありますよ」
更に人形が追加された。
「なっ!」
玄武は悟った。
たとえこの人形を倒せても、まだまだ人形を取り出して、確実に玄武達を追い詰めていくと。
「ぐふっ」
すると玄武の後ろから慈雲がやられる声が聞こえる。
「玄武様。慈雲のことは今は放っておいて。目の前に集中してください」
虎徹も更に攻撃を加えようとするが、
「威勢は良かったです。ですが、あまりにも戦力差がありましたね。私の配下の悪魔族を倒したからって油断しましたね」
虎徹もやがて倒された。
玄武はもう絶望するしかない。
自分一人ではこの状況は覆せない。
しかし椿が来てくれればまだなんとかなるかもしれない。
そう思ったものの、椿は一向に現れてくれない。
もしやMPがきれたのか。
それとも逃げた?
玄武は人形の大軍に心が折れそうになり……
「おじい様!?」
後ろから声が聞こえた。
慌てて振り向くとそこには、解放されたらしい、フランクリンの孫娘が走って来ていた。
「おい!こっちに」
来るな。そう言おうとしたが、次の瞬間に玄武は人形によって地面に倒された。
「え?……玄武、さん?」
リーリエは玄武までもが倒されている事実に驚きを隠せなかった。
そうして
「おやおや。脱出してしまいましたか。にしても可哀想ですね。折角助けた相手がわざわざ命を散らしに来るだなんて。助けた方を不憫に思いますよ」
侮辱だ。それは恐怖に怯えながらも友達を助けた花恋に対し、決死の覚悟でフランクリンの元まで走ってきたリーリエに対する。侮辱だ。
「リボーン!!」
玄武は怒りのままにリボーンの名を叫ぶも、人形に顔を地面に叩きつけられる。
「玄武さん!」
リーリエが叫ぶが、玄武はもう顔を上げられそうにない。
リボーンの笑い声が聞こえる。
せめて、リーリエは助かって欲しい。
花恋は無事に逃げてほしい。
そう思いながらリボーンの笑い声を聞く。
「あ、ああ………」
リーリエは前から進んでくる人形の威圧感に恐怖した。
あれは勝てない。昔からフランクリンに育てたれ、妖精族の秘術までも使えるようになった今でも勝てないと確信する。
リーリエはここまで走ってきたことに一瞬後悔するも、
「リーリエ、よ。なぜ、ここに?」
死にそうな表情でフランクリンが問うてきた。
「きっと、助からないから。だからおじい様の近くにいたいと、そう思いました」
フランクリンはその言葉に「馬鹿な娘だ……」と零してから人形を見つめる。
あの人形がここに来た時が人生の終わりだ。
あの人形はいわば死神。それは死へのカウントダウン。
リーリエは花恋に何も言わずに勝手にここまで走ったことに内心謝りながら、花恋が助けを求めた椿のことも思い出す。
親友が好きになった人だから、最後に少しでも話したかったな……と。
そうして人形の鎌がリーリエの首を跳ね飛ばそうと振るわれ、
リーリエは思わず目を瞑ったが、いつまでたっても首と体が離れる気配がしない。
そう思って目を開けると、目の前には
「勝手に飛び出すなよ。危なかったろ?普通に」
その鎌を片手で防いでいる椿の姿が。
「え、えっと?」
「大丈夫か?」
椿はあまりにも慈愛の篭った表情でリーリエを見てくるので
「だ、大丈夫れひゅ」
リーリエは思わず見とれてしまい、舌を噛んでしまった。
「そ、そうか。舌噛んだみたいだけどそれも大丈夫か?」
「大丈夫です。すみません。お手数おかけします」
「気にしてないから。とりあえずフランクリン持って花恋の所まで下がってて」
椿はそれだけ言うと、鎌を受け止めていた左手とは逆の右手で人形の首を掴むと、掴んだ手から炎を発射して人形を消し飛ばした。
そして次の瞬間には椿は周囲に"終焉の永久凍土"を発動させて人形を完全に凍結させると、玄武を押さえつけていた人形も吹き飛ばして、玄武を救出した。
「椿、殿か」
「ああ。"女神の息吹"っと。なあ、玄武」
「……なんだ?」
椿はリボーンの姿を目に捉えると
「あいつ、俺が貰ってもいいか?」
玄武たちの限界を察したのだろう。椿は玄武にそう問いかけた。
「わかった。そもそもこちらは椿殿以外は満身創痍だ。とても戦える状態ではない」
玄武はそう言うと、虎徹と慈雲を回収して引き下がった。
完全にリボーンの相手を椿に任せるようだ。
リボーンは椿を見て愉快そうに笑っている。
そんなリボーンを見ながら椿も楽しそうに笑いながら言った。
「久しぶりだな、リボーン。さあ、遊ぼうか」
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