俺の絆

「って放心してる場合じゃない。今のうちにリボーンを倒しに行くぞ」


 玄武は全体にそう言うものの、


「あれで死んでないのか?」


 妖精族の一人が疑問を口にした。

 妖精族的にはあれで倒れないなら無理じゃね?と思ったのだが、


「椿殿は我らに同胞の無念を晴らすために敢えてリボーンを残してるに違いない。今はリボーンの呆然としてるはず。それに配下もいない。倒すなら今だ」


 それを聞いて全員が覚悟を決める。魔王軍幹部リボーンと戦う覚悟を。


「花恋は今のうちに同胞たちの救出を」


「わかりました。ご武運を」


 そうして玄武たちはリボーンの元に進んだ。


「おやおや。急に攻撃が来たかと思えば、鬼人族と妖精族の皆々様でしたか。そんなに私と戦いたかったので?」


 余裕そうな表情をしたリボーンが待ち構えていた。

 リボーンはあれだけの攻撃をしたのなら、もうMPは残り少ないと思ったのだろう。

 だが実際はたった一人の人間の手による攻撃だし、その人間もまだ余力があったりする。

 つまり条件はイーブンだ。


「覚悟しろリボーン。配下のいないお前相手じゃ、取るに足らない」


「ほざきますね負け犬どもの族長程度が。仮にも魔王軍幹部。その程度の戦力で私を倒せるとでも?」


 そうして鬼人族と妖精族の精鋭と魔王軍幹部の戦いが始まった。


 一方その頃。

 花恋はなんとか地下に忍び込むことに成功した。

 現在花恋は用心に用心を重ね、"消音"と"隠蔽者"を使いながら先へ進んでいる。

 絶対に悪魔族に見つからないように。

 正直花恋の戦闘力は高くはない。

 たとえ鬼化しても、椿の足元にも及ばないだろう。

 だが、花恋は前に進む。

 花恋は今も恐怖で怯えている。

 早く帰ってしまいたいと。

 だけど、大切な友達が囚われてしまったから。

 大好きな人が1人で戦ったから。

 だから自分一人だけ閉じこもっている訳には行かないと、そう思った。

 そうして、


「リーリエ、皆さん」


 リーリエたちが捕まっている檻の前に辿り着いた花恋は小声で中に向かって話しかける。


「花恋?花恋!?」


 急に話しかけられ、しかもその声が知ってる人の声で驚いたリーリエは誤って大声を出してしまった。

 その結果


「おい、こっちから声が聞こえたぞ」


「どうせ檻に捕まってるヤツらだろ?」


 悪魔族が近づいてきた。

 怖い。あまりの怖さに怯える花恋だが、目の前の友達はそんな悪魔族に対して希望を絶対に捨てなかった。心が折れなかった。

 花恋が始めて好きになった人、椿はあの悪魔族よりももっと恐ろしいと感じる場所に一人で立ち向かった。

 逃げたい。そう思ったが、ここで逃げたら、もう二度とリーリエの友達を名乗れない。

 もう二度と椿の隣に立てない。

 そう思った花恋は


「すみませんリーリエ。少し、待っていてください」


 鬼人族の奥義、鬼化を発動すると、花恋は歩いてくる悪魔族を見つめる。


「花恋、ダメ、逃げて……」


 リーリエは泣きそうな顔で退避を促す。

 しかし、


「ああ?光属性の魔法か。そこに誰か隠れてるな」


「ほんとだ。じゃあ侵入者だな。こいつらは殺すなと言われてるが、侵入者を殺すなとは言われてないしな!」


 二人の悪魔族が武器を構える。

 花恋も鬼化によって額から生えたツノから力を得る。

 周囲の魔素を取り込んで自らの力に変える。これが鬼人族だ。

 これが世界最強の種族と言われる所以だ。

 今の花恋のステータスは


 名前:花恋・アイ

 年齢:15歳

 性別:女

 Lv.54

 MP:900

 筋力:150(+500)

 体力:280(+500)

 耐久:300(+500)

 敏捷:200(+500)

 魔力:430(+500)

 精神:300(+500)


 技能:

 武術

 全魔法適性

 高速詠唱

 高速演算

 魔力感知

 高速魔力回復

 鬼化

 】


 となっている。

 今の花恋なら並の悪魔族なら一蹴できるのだが、相手は一応精鋭。

 技能に武術があるとはいえ、魔法が使えるとはいえ、花恋が不利だ。

 だから、


「"大炎球"!」


 まずは中級魔法で牽制した。

 だが、


「はぁ!」


 槍を持った悪魔族が魔法をいとも容易く振り払った。

 しかし鬼化した花恋が放った魔法だ。さすがに完全には振り払えず、多少の手傷は負ったようだ。


「ぬん!」


 しかし悪魔族はもう一人いる。

 大剣を装備した悪魔族が花恋の首をはねようと迫ってくる。

 しかし


「"完全回避"」


 花恋は椿から教えてもらった昔に失われてしまった魔法である"完全回避"を使用して攻撃を避けることに成功した。

 この魔法はどの属性にも適さないので、技能が全魔法属性適性ならば、使えなかったが、椿の花恋の技能は全魔法適性。

 これならば"完全回避"も使えると思い、一応教えていたのだ。


「………"水爆"!」


 次は上級魔法で水を爆発させた。


「うわ!冷てえ」


「ふん」


 槍の悪魔族は濡れたことに文句を言い、大剣の悪魔族は静かに花恋を見ている。

 大剣の悪魔族は気づいているのだ。これが罠であると。

 だが、花恋はせめて片方だけでもと攻撃を放つ。


「……"雷槍"!」


 すぐに"雷槍"を槍の悪魔族に向かって放つ。

 すると


「なんの、これしき、あばばばばばばばばばば」


 槍の悪魔族が感電した。


「やはり、罠だったか」


 大剣を持った方は冷静に戦いを見ている。


「花恋、隙を見て、逃げて……」


 リーリエは知っていた。

 この大剣を持った悪魔族は槍の悪魔族よりも遥かに強敵であると。


「ぬんっ!」


 瞬間、大剣が振るわれ、防御が遅れた花恋は吹き飛ばされた。


「花恋!」


 大剣の悪魔族はゆっくりと花恋に向かって歩く。


「待って、待ってよ!私の命ならあげるから、花恋を、花恋には、手を出さないで」


 リーリエが必死に叫ぶも、


「言い残したことは?」


 大剣の悪魔族は無慈悲にも花恋にそう告げた。

 大剣の悪魔族は気づいていた。花恋が脅威であると。

 今殺さねばいずれ魔王にとって厄介な敵になると。

 だから何も言わない花恋の頭を一撃でかち割ろうと大剣を振り落とそうとして……


「ちょっと、おやめになってくれませんかね?」


 ガキン!という音が鳴って大剣が止まった。

 それを止めたのは


「椿、さん」


 意識を少し取り戻した花恋が名前を呼んだ。

 悪魔族の男は気づいた。

 花恋よりも、リーリエよりも、この男が魔王の敵になると。

 だから今ここで確実に屠ろうと剣を振るい、


「邪魔」


 悪魔族の男が吹き飛ばされた。


「……は?」


 リーリエには何が起きているのかわからなかった。

 確かにリーリエは花恋から椿という少年はどことなく強い気配を感じるとは言われていたが、先程まで花恋を殺そうとしていた相手を雑に吹き飛ばすくらい強いとか誰が予想しただろう。


「この……」


 悪魔族の男はまだ立ち上がろうとするも、


「"女神の息吹"っと。無茶ばかりするなよな、花恋」


 椿は花恋を完全に治癒していた。


「さて、と。おい、そこの悪魔族」


 そして花恋を回復し終えると、椿は悪魔族に目をつけた。


「なんだ?」


 悪魔族がそう返事をすると、椿は一瞬で悪魔族の男の前に移動すると、その顔を蹴りあげた。


「ぐふっ」


 衝撃をコントロールして少しだけ蹴りあげると、すぐさまかかと落としの要領で地面に倒した。


「ぐぶっ」


 もはや悪魔族の男は傷だらけでまともに戦えたものじゃない。


「おい、お前」


 椿は静かに男を見つめる。

 なんとか一矢報いようと考えるものの、大剣が手元になく、絶対的な実力差を見せつけられ、心が既に折れていた。


「お前、なに人の絆を汚そうとしてるんだよ」


 その時のことをこの悪魔族の男は忘れないだろう。たとえ来世になっても覚えているだろうと、その魂にこの男だけは敵に回してはいけないと刻み込んだ。


 椿のあまりの怒気でショック死してしまった後、椿は花恋に振り返ると、


「花恋、顔が赤いみたいだが、大丈夫か?」


「え、え?」


 花恋は自分の顔を確認しながら、


「つ、椿さん。さっきの、絆って……」


 先程のことを椿は思い出しながら、


「まあ、せっかく出来た友達だから、な?」


 椿のその言葉に少し落ち込んだ花恋だったが、すぐに前を向いた。


「では、椿さん。次は足を引っ張らないように頑張りますね!」


 そうし暫くして檻は解除された。


「花恋!」


「リーリエ!」


 花恋とリーリエはお互い抱きしめ合う。


「花恋。絶対に助けてくれるって信じてたけど……それでも花恋が戦い始めた時は心臓が止まるかと思った」


「ごめんねリーリエ。リーリエの友達として恥ずかしくないようにしたかったから」


 そう言って二人で抱きしめあった。

 開放された鬼人族達は、リボーンは退けられたのだろうかと期待の眼差しを椿に向けたが、


「いや、まだリボーンは健在だ。今も上で妖精族の精鋭と鬼人族の生き残りが戦っている。配下は殲滅したから残量戦力はリボーンだけだな」


 椿の言葉に鬼人族たちは再び絶望した。

 彼らとで弱くはない。

 たとえ椿ほど圧勝はできなくても、ほとんどが先程の大剣の悪魔族には勝てる程の力を持っている。


「さて、鬼人族は解放した。これのメンタルケアはお前の仕事だ玄武」


 そう言いながら椿は天井を見上げる。


「はやく終わらせないと、その獲物、俺が取っちまうぞ?」

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