全部あいつ一人でよくね?
「リボーン……?」
椿の口からかつて戦った魔王軍幹部の名前が紡がれた。
「どうした、椿殿」
玄武が質問したことにより、自分が今無意識に言葉を発したことを理解した椿は首を振った。
「なぁ玄武。今リボーンって言ったよな」
「ああ。軍団指揮に定評のある魔王軍幹部の名前でな。それがどうした?」
聞き間違えじゃなかったことを確認すると、
「そいつは俺をここまで転移させた張本人だな。未弱な頃の俺はまんまと飛ばされたわけだ」
それを聞くと玄武は成程と納得した。
「ところで椿殿よ。訪れた先で何か得たものはありましたかの?」
「フランクリン。ああ、新しい力を手に入れた。それよりこれからどうするんだ?」
椿が聞くと、二人とも顔を俯かせてしまった。
「……正直、可能性はかなり低いが打開策が無いことは無い……」
「ですが、どうしても実行するにはあと一歩足りないのです。我らがその作戦を実行するには値するなにかが」
そうして作戦を聞いた。
まず残りの戦える妖精族と玄武、虎徹、慈雲でリボーンの軍隊に戦いをしかける。
その隙に花恋が集落に潜入して囚われた鬼人族とフランクリンの孫娘であるリーリエを救出して椿が武器を渡して戦ってもらうという作戦だ。
「作戦は理解した。だが、そのリーリエっていう子を含めて心は折れてるだろうな」
そう。玄武もフランクリンもそれを理解しているらこそその作戦を実行に移せない。
なんとかこの集落に逃げてくることができた鬼人族の男も、心が完全に折れていた。
これ以上戦わせるのは無理だ。
「そもそも10万もの大軍をどうにかできる戦力がございませぬのでな」
フランクリンも仲間を、孫娘を助けられないことに歯痒い気持ちを抱いている。
「せめて、殲滅力があり、火力も十分にある最上級魔法を連発出来れば……」
「無茶言うでない玄武よ。最上級魔法を連発できるものなど存在せぬ」
最上級魔法。玄武のその言葉をきいて椿は打開策が閃いた。
「玄武、フランクリン。俺なら最上級魔法を無詠唱で連発できるぞ」
その言葉をきいてフランクリンと玄武は目を見開いた。
「フランクリン殿!」
「……嘘感知に反応は、ない」
その言葉で玄武は察した。
椿は本当に最上級魔法を連発出来るのだと
「それにしても、どうやって連発するのだ?」
その疑問はもっともだと思い、椿はネタばらしをする。
「俺のMP総量だよ。俺の最大MPは大体一万を越えている。高速魔力回復の技能もあるし、殲滅力は保証できる。魔力のステータスもそれ相応にあるしな」
その椿のセリフに玄武とフランクリンは絶句した。
つまり椿は玄武の最大火力である"極滅の業火"よりも高い威力の魔法を無詠唱で連発できるということだ。
玄武も詠唱省略などはできるが、それでも最上級魔法は省略するのも難しい。
それを椿はノータイムで連発できるというのだ。
「本当に、味方にしておいて良かった……」
でも、光明が見えた。
「フランクリン殿!」
「うむ。このことを全体に説明し、囚われた仲間を取り戻しに行くとするかの」
そういうと玄武とフランクリンは立ち上がって家の外に出ていった。
椿も体を癒すのと装備を整えるために一度宿泊施設に戻ることにした。
椿が施設に入り、部屋に向かう途中
「あ、椿さん!」
「ん?花恋か」
後ろから花恋が歩いてきた。
「あの場所から帰ってきてたんですね」
「まあな。取り敢えずもうすぐ北の集落に向かうらしいけど花恋はどうするんだ?」
「そう……ですね。本当は怖いですが、友達が囚われているんです。助けに行かないと!」
花恋は顔に怯えを出しながらも、友達のために向かうとはっきりと言った。
友達という言葉に椿は少し考える。
自分には、心の底から仲良くなった人なんていなかっな、と。
唯一話していて楽しかったのは今のところエミリーくらいだろう。
だから、
「多分あとで聞くだろうけど、俺が囮になるから花恋は友達を優先して助けにいけ」
花恋は一瞬何を言われたのかわからなかったが、すぐに理解して
「え?囮、ですか?なぜ、危険ですよ?」
「心配してくれるのか?」
「当たり前です!だって、あなたは……」
花恋はそこまで言うと、言葉に詰まってしまった。
「大丈夫だって」
「……なんで、そう言いきれるのですか?」
「だって、俺は強いからな。誰よりも」
今の椿は自分の強さに絶対的な自信を持っている。
だからそう断言出来る。
「まあついでに花恋が友達を助けやすいようにはしてやるからさ、何も焦ることは無いよ」
椿はそれだけ言うと、今度こそ部屋に戻った。
椿が荷物を纏めると、どうやら説得に成功した玄武がこちらに歩いてきた。
「椿殿。準備は大丈夫なのか?」
「もちろんだ。今すぐにでも戦える」
椿はそう不敵な笑みを浮かべた。
「頼もしいな。椿殿が本当に大軍を殲滅してくれるのであれば、妖精族は人数を絞って幹部との戦いに備えるそうだ」
玄武は自分たちの力だけでリボーンを倒すつもりらしいが、椿は玄武達じゃリボーンには勝てないと思った。
だが、時間稼ぎは出来ると思ったから。
「じゃあ、そっちは任せた」
その仕事を玄武に託した。
「任された!」
そうしてしばらくしてから出発をした。
鬼人族は逃げてきた人を除けば全員で来た。
花恋は心配そうに椿を見ているものの、何も言わなかった。
妖精族はフランクリンを含めた5人ほどで来ていた。
どうやら妖精族の精鋭たちらしい。
「ここが、転移魔法陣だ。集落からは少し離れた場所に設置している」
玄武の言う通り、この魔法陣までも妖精族の集落から少し歩いた。
「では、全員準備はいいか?」
玄武は全員の顔を見ながら説いた。
全員覚悟は出来ているようだ。
「では、行くぞ」
そうして魔法陣を発動して、最初に見た景色は……
「あ?なんだ貴様……」
「"獄炎"」
場所に気づいていたのか、監視に来ていた悪魔族と、それを見つけた瞬間に排除する椿の姿だった。
「玄武、早速出てきたから燃やしたけど大丈夫だったか?」
「あ、ああ。助かった」
全員が戦慄した。
容赦が無さすぎると。
玄武と虎徹と慈雲は少し安堵していた。
自分たちと戦う時に手加減していてくれて本当によかった、と。
「じゃあそこの集落に向かって無差別に魔法を放つから」
でも、さすがにその言葉を聞いて止めないものはいなかった。
「待て待て待て待て待て!無差別に?まだ囚われている人だっているんだぞ!?」
そう。止めたのは玄武だった。
「椿殿。さすがにいきなり無差別攻撃を始めると言われて止めぬものはいますまい。いきなりどうしたのじゃ?」
虎徹にそう聞かれて椿は説明をはじめた。
「まず、俺が"索敵"と気配感知で感じ取ったところ、全員地下に囚われているな。しかも人質として運用するつもりだから結構強力な結界を貼りながら。そこに俺が上からもう一個強力な結界を貼り直しつつ、最上級魔法で適当に攻撃仕掛けるから終わったら全員が突撃。そんな感じで」
椿の言葉に殆どの人が理解出来ていなかったが、椿はお構い無しで飛んでいってしまった。
「さて、と。昇華してから気兼ねなく力を振るうのは始めてだ。遠慮なくいかせてもらおう。"次元天蓋"」
椿は怠惰の権能を得たことにより、より強力になった"天蓋"改めて"次元天蓋"で地下の鬼人族を守った。
「さてさて、それじゃぶっぱなしますか。魔法多重発動"極滅の業火""終焉の永久凍土""滅亡の光""断罪の雷鳴""瞬滅の滝烈""死を呼ぶ死神の嵐"」
火、氷、光、雷、水、風属性のそれぞれの最上級魔法を十発ずつ手始めに放った。
「この!」
空を周回していて、椿に気づいて単身襲いにかかってきた悪魔族には
「"堕天"」
最上級回復魔法を放った。
悪魔族にも回復魔法は効く。
回復魔法は細胞分裂による肉体の修復速度を速める魔法だからだ。
だが、"堕天"は違う。
植物に水をあげすぎると育つのではなく、枯れ果てるように、回復魔法を過剰に与えることによって肉体を崩壊させる魔法、それが"堕天"だ。
この魔法の恐ろしいところは、回復魔法によって崩壊させられているので、回復魔法では修復出来ないというところだろう。
こうして、鬼人族の集落を守護していた悪魔族は数分後には全員殲滅させられた。
リボーンただ一人を除いて。
玄武達は悪魔族が殲滅させられる瞬間を見て、誰かが呟いた。
「もう、全部あいつ一人でよくね?」
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