戦いの高揚

どういう育て方をしたんだい?親の顔が見てみたい気分だ』


「いや、さすがにあんなにいやらしいトラップばっかの場所であんなにポンポントラップやらモンスターの大群やら出されたら誰でもやると思うぞ?」


 バンボラの言葉に椿は思わず愚痴ってしまう。


『仕方の無いことだろう。これも試練だ。だが、その分貰える報酬もでかい。それにしても君はバンボラのことを知ってるみたいだけど、どこかの試練をクリアしたのかな?』


「ああ。色欲の間をクリアした」


 するとバンボラは『なるほど色欲の間を。どうりで』と言いながら椿を見つめていた。


『試練を一つでも攻略済みの君に我らバンボラが宝玉を与えることを拒む理由はどこにもない。ついてきたまえ。君に怠惰の宝玉を授けようではないか』


 そう言いながらバンボラは奥の部屋に向かって歩き始めた。

 言われた通りに椿は後ろをついていく。


『ここが宝玉を授ける場所さ』


 そう言って案内された場所は


「散らかってない……」


『……色欲の間のバンボラはそんなに散らかしていたのかい?』


 怠惰のバンボラが呆れ声で言っているが、無視する。

 椿は散らかっていない部屋に軽く感動しながら、


「ところで、授けてくれるなら宝玉出してくれよ」


『全く、初めての攻略者がこんなにも図々しいやつだなんて予想外だよ……』


 バンボラは文句を言いながらも、魔法陣を展開すると、宝玉を取り出し、椿の胸の前まで持ってきた。


『はい。これが怠惰の宝玉。能力は……まあ授かったらわかるよ』


 どうやら説明するのも面倒らしい。


「はいよ。ありがとう」


 椿は宝玉を受け取ると、その宝玉を取り込んだ。

 ステータスを確認すると、確かに技能に怠惰の権能が追加されていた。


「怠惰の権能……予想通りデバフか」


『あ、やっぱりわかった?そうそう。怠惰の能力の一つは強力なデバフ能力。既存のバッドステータス系の魔法を超強化できたりするくらいだけどね』


 確かにそれだけなら地味な能力だろう。

 だが、怠惰の能力はもう一つある。椿的にはそちらの方が重要だった。


「空間干渉能力まであるのか」


『そう。この世のありとあらゆる空間に作用できる能力だよ。転移魔法とかは怠惰の権能が発祥だね。これを極めればどこへだって行けるようになる』


 どこへだって。

 その言葉が椿の頭の中を駆け巡る。

 なら、地球への扉も開ける?


「ちなみに、魔界や天界に移動するのにも極めないとダメなのか?」


『いいや?あそこら辺は別世界といえども、概念的には同じ世界だ。今の君の転移能力でも問題ない。なんならMPのゴリ押しでも大丈夫だ』


 なるほど。もし鬼人族たちが言う魔王軍幹部が来ないなら直接乗り込む案も可能だなと考える。

 危険は伴うだろうが、その分戦力を集めればいい。


『ところで、色欲のバンボラは何か言っていたかい?』


 おそらく最後になるであろう質問に対し、


「全ての試練に挑めって言われたな」


 それだけ言って怠惰の権能を使用する準備を始める。


『そうか……君、外に出るなら魔法陣くらい出すけど?』


「いや、いい。折角手に入れた能力だ。試運転を兼ねてこれで外に出るさ」


 それだけ言うと、椿は怠惰の間の入口に向かって転移した。


「っと。成功したみたいだな」


 景色が一瞬で変化した。

 目の前に広がる景色は正しく最初に見た森の景色だ。


「さて、と。妖精族の集落まで歩くとするか」


 そうして椿はゆっくりと歩いて帰ることにした。

 途中モンスターが襲いかかってきたが、適当に蹴散らして、集落に戻った。

 だが、そこで違和感を感じた。


「なんか、人が少ないな」


 元々妖精族の絶対数は多くは無かったのだが、現在は誰も外に出ていない。

 全員が家の中でこもっている。


「フランクリン、玄武。何があった?」


 とりあえず族長の家に入った椿はフランクリンと玄武が向かい合いながら俯いてるのが見えた。


「椿、殿か。やはり生きて帰ってきたか……虎徹から相当危険な場所に足を踏み入れたと聞いていたのにな……」


「そんなことは今はどうでもいい。勝手に出歩いていた俺が言うのもあれだが、情報共有だ。一体何があった?」


「……魔王軍が襲撃してきたのですぞ」


 魔王軍の襲撃。その言葉をきいて椿は一瞬硬直した。


「……襲撃するのはやくないか?」


「我々も完全に予想外だった。フランクリン殿の孫娘が北の集落に事情説明と警戒態勢を伝えに行っているすきに襲撃に来たそうだ。この情報はあちらから何とか逃げてきた鬼人族の一人から聞いた情報だから間違いないはずだ。フランクリン殿の嘘感知にも反応が無かったしな」


 なるほど。

 玄武が落ち込んでるのは準備すら完全に出来ていない状況での不意打ちに対して。

 フランクリンが落ち込んでるのは孫娘が囚われている、又は殺されてしまっているかもしれないことに対してだろう。


「ちなみにどの幹部が襲撃してきたんだ?」


 そうして椿が玄武たちに質問をする。


「そいつは我々の集落を襲った幹部と同一人物だったらしい」


 椿がなんとなく聞かなかった幹部の名前が明かされる。


「魔王軍幹部知略の代名詞、軍団指揮を最も得意とする幹部リボーンだ」


 椿の心が震えた。



 □■



 北の集落にて。

 現在鬼人族たちは誰も死んではいなかった。

 全員が地下が一度は捕らえられたが、妖精族であるリーリエをみつけ、人質に使えると判断したリボーンが地下に全員を幽閉したのだ。


「リボーン様。今のところ異変は御座いません!」


 悪魔族の一人がリボーンに報告する。


「そうですか……逃亡した鬼人族が助力を願いに行ったのかと思ったのですが、あちらも怖気付いたか?」


 リボーンは愉快そうに笑う。

 リボーンが鬼人族を逃がしたのはわざとだ。東の鬼人族も北の鬼人族も。

 妖精族までおまけでついてくること戦い。楽しいものになるだろう。それに


「あの妖精族。他の鬼人族は絶望していたというのに、あの娘だけは薄らと希望を抱いていましたね……」


 リボーンとその大軍を見ても抱ける希望。

 その希望の理由をリボーンは楽しみにしている。


「もしかしたらいるのかもしれませんね。10万もの悪魔族の軍を一蹴し、私すらも倒しうるイレギュラーが」

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