どうかご無事で
夜に花恋を慰めた後、花恋は泣き疲れたのか眠ってしまった。
その後、さすがに肌寒いと感じた椿は周囲の温度を魔法で少し上げて夜をやり過ごした。
魔法を使っているので完全に眠ることは出来ず、夜はずっと起きることになった。
太陽が登ってきたタイミングで椿は花恋を起こしたのだが、花恋は椿の顔を見ると、顔を真っ赤にして謝りながら逃げてしまった。
ちなみに椿は今は族長の家に呼ばれている。
「まずは来てくれて感謝しますぞ、椿殿」
フランクリンがそう言いながら椿に軽く頭を下げる。
「いいよ別に。俺が選んだことなんだから」
そう言いながら椿は苦笑いを浮べる。
正直椿はそういうのは慣れてないので苦手だった。
「だが、俺からも椿殿には感謝している。椿殿の力はまさに一騎当千。これで魔王軍幹部との戦いも少しは楽になるはずだ」
玄武もそう言いながらわらっていた。
想像だにしていなかった戦力の増加が嬉しいのだろう。
「にしても本当に魔王軍幹部とことを構えるのか?もう出てこない可能性は?」
椿の疑問点。それは鬼人族の集落を襲ったという魔王軍幹部がもう姿を現さない可能性だ。
もし姿を現さないなら、椿はエスポワール王国の王都に向かって再度旅を続ける予定だった。
「それに関しては心配いらない。あやつが集落を襲った時に帰り際に次は大陸の北部にある鬼人族の集落を襲うと言っていたからな。いつ来るかはわからないが、そこまで時間も離れていないだろう」
「北部って。ここがどこかはわからないが、そんなところまで軽々と行けるのか?」
「心配いらないさ椿殿。我々は北部の集落とも繋がっていてな。そのための転移陣もこの里の近くに設置している。ちなみにここは大陸の東部だ」
ここって東だったのかと思いながら話しを聴く。
つまり
「時期が来たら戦える奴らで北部にて戦闘態勢で待ち構えるってか?」
「そういうことになるの。それまでに椿殿にはその目的を果たしてもらいたいのじゃが……」
フランクリンはまるで急かすように椿に言う。
それもしょうがないことだろう。
仲間が襲われかけているのだから。
「玄武達も心の傷が癒えてないだろうに、よくやるな」
「……我らが死んでいった同胞たちを本当の意味で労えるのは奴を倒したあとだけだ」
その言葉に椿は「そうか……」と言葉を零す。
花恋もきっとそう思っていたのだろう。
だが、玄武達は憎しみや憤怒の割合の方が今は大きく、花恋は悲しみの感情の方が上だっただけ。
「じゃあ俺はしばらくしたら花恋にその場所まで連れて行ってもらうよ。生きていたら二日以内には帰って来れるようにするさ」
そう言って椿が立ち上がって族長の家から出ようとすると
「椿殿」
玄武が椿を呼び止めた。
「どうした?玄武」
椿が何事かと振り返ると
「死ぬなよ」
一言だけ告げた。
「……こんなところで死ぬ気は無いよ」
椿はそれだけ言うと族長の家から出た。
その後椿は宿泊施設の椿に割り当てられた部屋に戻って準備を済ませると花恋の部屋に向かった。
「花恋。少しいいか?」
ノックをしてから話しかけると中から「ヒャイ!」という声と、何かが倒れる音がして、花恋が顔を出した。
「……えっと、大丈夫か?」
「だ、大丈夫れしゅ!えっと、向かうのですか?」
最初は何故か緊張していたが、椿の装備などを見て察したようだった。
「ああ。花恋、昨日言っていたその不思議な気配のある場所まで連れて行ってくれ」
その後花恋が快く了承してくれたお陰で、早速その場所まで向かうことになった。
ちなみに花恋は帰りの護衛として虎徹を連れてきていた。
さすがに一人で帰らせるのは良心が痛むと感じた椿がわざわざ頼みに行ったのだ。
「着きました椿さん」
やがて花恋の先導で歩いていたのだが、その不思議な気配の場所に辿り着いた。
「ここか……確かに似てるな」
「似てる、ですか?」
似ている。
椿は以前攻略した色欲の間の雰囲気と似ていると感じた。
「ありがとう花恋」
「いえ。それにしても椿さん、これってなんなのでしょうか?」
花恋は興味本位で椿に質問をしてみる。
虎徹はこの場に来てからやたらと周囲を警戒している。
やはり戦いを生業とする人にはわかるのか。
この底知れないプレッシャーが。
「ここは、世界各地に散らばっている九つの試練という試練の一つの入口だ」
椿も警戒しながら入口を見つめる。
色欲の間とは違い、自らその領域に足を踏み入れるのだ。
「花恋、虎徹ここまで着いてきてくれてありがとう。あの中は危険だからここから先は俺一人で行くよ」
そう言って椿は足を踏み入れようとして
「椿さん!」
花恋がそれを呼び止めた。
椿が振り向くと
「どうか、ご無事で……」
まるで祈るように花恋は椿に言った。
その花恋を見て、玄武に似てるなと思いながら手を上げて、試練に足を踏み入れた。
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