妖精の羽が生えたおっさんが現れた!!
前回のあらすじ。
鬼人族と戦っていたら羽生えたおっさんが出てきた。
おそらく、妖精族の生き残りだろう。
エミリーが言ってた気がするなと椿は思ったが、すごいおじさんだ。
もう羽のあるおっさんってだけで気色が悪いのに、しかもそれが妖精だなんて……
「あなたはフランクリン殿!」
玄武がそう言いながらおっさん妖精ことフランクリンに話しかける。
「緊急事態です。おそらく、このもの魔王軍の差し金の可能性が高く……」
「いいや。その必要はありはせんぞ」
これから玄武とフランクリンの二人で椿に立ち向かってくるのかと思ったが、戦おうとする玄武をフランクリンが止めたことにより椿は"
「フランクリン殿。なぜあいつへの攻撃を止めるのですか。彼は魔王軍の手先かもしれないのですよ!」
「いいや。彼は魔王軍の手先でもなければ怪人族でもありませぬ。たまたまここに迷い込んだ一般人でありますぞ。戦闘能力は高いようでありますが、な」
どうやらフランクリンは完全に椿を信用したわけではないが、魔王軍の手先だとは思っていないらしい。
にしてもなぜ確信出来るのだろうか。妖精族の固有能力?エミリーからはそんな話しは聞いてなかったので、椿は困惑しながらも対話を試みる。
「俺はしがない迷子だ。決して魔王軍の手先などではないし、なんならここにいるのは魔王軍の幹部に強制的に転移させられたからだ」
玄武は椿を睨みつけながら話しを聞いていたが、フランクリンは
「嘘感知に反応は無い。どうやら彼は完全に被害者のようでありますぞ」
嘘感知のおかげでなんとか信用して貰えた。
玄武はその言葉を聞くと、
「フランクリン殿がそう言うのなら本当のことなのだろう。人間族の男よ。勝手に魔王軍の手先などと勘違いをし、襲いかかったことを謝罪したい」
「いいよ別に。俺だってお前の仲間斬ったからな」
椿は玄武の謝罪を受けながら、傷が深い虎徹の元に歩く。
「うっわぁ結構深い傷。っでなんでこの人生きてんの?"絶象"っと」
椿が色欲の再生能力を虎徹に使用すると、虎徹の傷は瞬く間に治癒された。
「なんという回復魔法なのでしょう」
花恋が椿の施した治癒を憧憬の眼差しで見つめる。
「よし、じゃあそっちで吹き飛ばされてた慈雲っていう鬼人族のやつは普通に回復魔法でいいよな"聖女の祈り"」
そうして回復された慈雲と虎徹はしばらくしてすぐに目覚め、フランクリンと玄武に事情説明をされた。
ちなみにその間に椿はなんやかんや魔障壁に閉じ込められて玄武に出して貰えずにいた花恋を出してあげた。
「はい、花恋さん。これで出られると思うけど」
「そうですね。ありがとうございます。結局、玄武の結界はあなたに対してはなんの意味も無かったようですね」
花恋は感謝の言葉を言うと、少し寂しそうな目でそんなことを言った。
そうしていると、フランクリンと玄武がこちらに向かってきた。
「椿殿。話があるのだが……花恋を出してあげてくださったのか」
「ああ。で、話ってのは?」
「それは私から。椿殿よ。お主も玄武たち同様魔王軍の幹部にやられたいわば同士という認識で大丈夫ですかの?」
「ああ。鬼人族達がどの幹部に襲われたかは知らないが、俺も幹部との戦いの果てにこの近くに転移させられた被害者だ」
それを確認するとフランクリンは椿を真っ直ぐに見ながら言ってきた。
「ならば我ら妖精族の隠れ里には来てくれませぬかな?我らと襲われた鬼人族の集落のもの達とは言わば同盟関係でありましてな。その仲間が襲われたとあれば我らも共に戦う意思はあります。しかし現状では戦力不足が否めませぬ故に三人の鬼人族相手に圧勝した椿殿の力も貸してほしいのであるが……」
フランクリンはそう言うと玄武を見て、
「俺からも頼む。力を貸してほしい。勝手に勘違いして襲撃して、しかも回復までしてもらったのに恩を仇で返すようで悪いが、我々にその力を貸してほしい!このとおりだ!」
滅んだ鬼人族の集落の時期族長と呼ばれていたらしい玄武まで頭を下げた。
どうしようかと椿は頭を悩ます。
無闇矢鱈に誰かを助ける気は無いが、気楽に見捨てられるほど椿の心はまだ腐っていない。
だが、このままタダで助けるのも負けた気がするので。
「じゃあ俺からも条件っていうか、お願いがあるんだが……」
そう言うと玄武は真っ直ぐにこちらを見た。
「なんだ?言っておくが恩人とはいえ、無理難題は……」
「無理難題じゃない。俺が欲しいのは情報と俺の行動制限を無くして欲しいくらいだ」
椿の言葉にフランクリンはしばし悩むが、
「我ら妖精族の集落は今の人間族は誰も知らぬように作られております故に、好き勝手にされては困るのですがな」
「大丈夫だ。俺は実は探索したい場所があってな。この近くにあるのならそこを探索したいだけだ。それ以外でお前らに迷惑をかける気は無い」
「……その情報というのは?」
ある程度了承したのか、玄武が質問をしてくる。
話しやすくて椿はとても助かっている。
「九つの試練って言ってもわからないと思うが、何か特殊な力がある洞窟とか遺跡とかないか?」
その言葉に真っ先に反応したのは椿の後ろにずっと立っていた花恋だった。
「わたくし、その不思議な力がある洞窟を知っています!」
まさかの情報に、近くにある色欲の間じゃないよね?と思いながら話しを聞く。
「確か、何年か前に、リーリエと妖精族の集落の近くで遊んでいた時に不思議な気配のある洞窟を見つけました。場所は覚えていますので案内くらいはしますが……」
その情報に椿は内心でガッツポーズをした。
妖精族の集落の場所は知らないが、位置的に色欲の間では無さそうだ。
「じゃあ有意義な情報も得られたし、俺もその幹部討伐に協力する」
そう言うと、玄武とフランクリンは頭を下げて、
「では、椿殿も一緒に妖精族の里へ案内しますので着いてきて下さいまし」
そう言ってフランクリンが先頭を歩き出した。
その後ろに、玄武、虎徹、慈雲と続いて、さらに後ろに椿と花恋が歩いていく。
そうしてしばらく歩くと集落に辿り着いた。
フランクリンが予め言っていたのか、鬼人族が来たことには何も言われなかったが、椿が来たことには警戒しているようだ。
「フランクリンさんよ。妖精族ってのは相手の種族を知る術があったりするのか?」
「ええ。妖精族の固有技能です」
そう言われて、玄武はフランクリンの家である族長の家に向かったが、虎徹と慈雲と花恋と椿は近くの鬼人族が来た時用の宿泊施設に案内された。
そしてその夜。
「……眠れない」
なかなか寝付けなかった椿は起き上がると夜空でも見ようかと宿泊施設の屋上に向かった。
屋上に来るとそこには
「あ、椿さん。どうしたのですか?」
「花恋、か」
花恋がいた。
「俺は夜空を見に、な。花恋こそどうした?」
「わたくしは、少々眠れなくて……」
そう言いながら花恋は悲しそうな目をしながら夜空を見上げてる。
そんな寂しそうな目をした花恋に椿は自分の上着を被せた。
「……え?」
「そんなかっこじゃ風邪ひくと思ってな」
花恋が椿を見ると、そう言いながら、柄にもないことをしたという表情をしていて、少し可愛いと思った。
戦闘では鬼人族の集落の中でもトップクラスに強いと言われていた三人を相手に無双をした相手がそんな表情をしているのだから。
少しクスッと笑うと、
「花恋、お前無理してないか?」
「……え?」
「お前の仲間たちは魔王軍幹部に対して怒りや憎しみを抱いているようだが、お前は仲良かった人達が死んで悲しみを感じてるにも関わらずそれを隠そうとしている気がする」
「そんな、ことは……」
花恋は反論しようとしたが、上手く言葉が出なかった。
そんな花恋を椿は胸元に花恋を引き寄せた。
「あ、あの、椿さん?」
「花恋は悲しみを自分の中に溜め込もうとする悪癖がついてるみたいだからな。別に泣いたっていいんだ。悲しんだっていいんだ。今は、俺以外は誰も見てないんだからさ」
椿はそう言いながら花恋の頭を撫でる。
「……甘えても、いいんでしょうか?」
「良いに決まってるだろ?俺だって色んな人に助けてもらいながらここまで来たんだしさ」
すると花恋は椿の胸元でしばらく黙ると、
「では、少し胸をお借りしますね」
しばらくして花恋の肩が震える。
「う………うぅ……」
花恋が嗚咽を零すが、椿は何も言わずに頭を撫でる。
「お父……様…お母……様…みんな……うわぁぁぁぁぁ!!」
花恋の悲しみの声は、しばらくの間続いた。
椿はそんな悲しむ花恋の声を聴きながら、ずっと傍に居続けた。
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