VS 鬼人族(三人)

 初手は鬼人族の偉そうな人から始まった。

 偉そうな人は腰に帯剣していた刀を抜くと、椿に斬りかかってきた。

 しかし椿は冷静にその刀の側面を左手で軽く殴りつつ、鬼人族の腕を右手で掴んで軌道を逸らした。


「よっと」


「なに!?」


 偉そうな人が驚いている隙に、木に寄りかかっていた男が椿の後ろに高速で移動して抜刀術の要領で椿の首をはねようとした。

 しかし


「"風爆"」


 椿が発動した風が爆発を起こし、椿は衝撃で飛び上がることによって完全に逃れることに成功した。


「やりおる。体術だけでなく魔法までとは……」


「さすがに武器も持たずにこの森で俺たちに奇襲を仕掛けようとしただけはある」


「いや、それ完全に誤解……!」


 弁明しようとした瞬間、背後から殺気を感じ取った椿は再度"風爆"を使用することによりその殺気から逃れた。


「なるほど。これもよけるか……」


 そこには先程まで完全に存在を忘れていたもう一人の鬼人族の男が。


「めんどくせえ!」


 地上に戻ると、次は偉そうな男が掌を椿に向けながら詠唱をしている。

 そして椿が逃れぬように抜刀術の構えで達人っぽい鬼人族が襲いかかってくる。


「"身体硬化"」


 抜刀術で抜かれた刀を魔法で硬化した腕で完全に防いだ。

 そして


「攻撃の瞬間の微量の殺気で丸わかりだぞ」


 そう言って背後から気配を消して襲いかかってきた鬼人族の刀を片手で悠々と掴んだ。


「な!?」


「そいっと」


 掴まれてすぐに投げ飛ばした隠密の鬼人族のことは置いておいて、今度はポーチから剣を取り出す。


「ほう。お主も剣を扱うか」


「ああ。折角だからな」


 そうして刀と剣がぶつかり合う。

 椿も高いステータスを使って上手く鬼人族の攻撃を受け流しているものの、


「やっぱり技術は俺が下か」


「……寧ろ私からしたら何度攻撃してもかすり傷で済ませられるあなたの肉体強度が脅威でしかないですがね」


 分が悪いと感じた椿は一旦距離を取ろうとするも、


「そこでそう来ると思ったぞ」


 頭上から二本の刀を装備した隠密の鬼人族が奇襲を仕掛けてきた。


「影薄すぎなんだよ!」


「それが私だ」


 そして二人の手練の猛攻に椿は防戦一方になる。

 さすがに近接戦をはじめて数分の椿と明らかに手練の二人とではステータスでは見えない差というものがある。

 だが、これでいい。


 椿は魔力感知でそろそろ偉そうな鬼人族の魔法が完成することを感じた。


「虎徹殿。そろそろ玄武の魔法が完成する」


「承知しました」


 達人っぽい鬼人族が虎徹で、偉そうな鬼人族は玄武って言うのか。

 日本人っぽい名前だなと椿は感じながらもその場に留まる。


「何?死ぬ気なのか?」


「だが慈雲よ。相手が逃げぬのなら好都合であろう。もし生き残ってもすぐさま攻撃を仕掛けられるぞ」


 そうしてついに玄武の魔法が完成した。


「消え失せろ!同胞の仇よ!"極滅の業火"!」


 かつて椿が魔王軍幹部リボーンに放った最上級火属性魔法が今、椿に襲いかかる。


「うおおおおおおおおお!」


 かつての椿の放った"極滅の業火"よりも高い火力が発揮されているその攻撃を椿は正面から受け止めた。


「よし。これでやったか!?」


 玄武がさらりとフラグを建築しながら椿が立っていた場所を見る。

 慈雲と玄武も油断せずに椿の立っていた場所を見る。

 未だ"極滅の業火"が当たった影響で煙が晴れないが、あれほどの威力だ。魔王軍幹部クラスじゃないと耐えられないだろうと思っていた。


 しかし、この中で一人だけ気づいていた。

 唯一戦闘に参戦していなかった鬼人族の女の子が。


「玄武様!まだです!」


「なに?」


「あの中から魔力反応が!彼はまだ生きています」


 鬼人族の女の子は少し瞳に驚愕と恐怖を含みながら玄武に忠告する。

 そして


「うっわ。思ったよりも威力高かったな。折角新調した服が燃えカスに……」


 煙の中から上半身の衣服がボロボロに燃えてしまったにも関わらず、椿が悠然と歩いてきた。


「な!?貴様!なぜあれだけの攻撃を受けて平然としている!」


「え?そんなに平然としてないじゃん。実際服燃えちゃったし」


 そうじゃない。鬼人族達はそう思いながら椿を見やる。

 どこからどう見ても怪我をしている様子はない。なんなら火傷すらしていない。


「まっそんなことどうでもいいじゃん。そんなことよりさ」


 怖い。鬼人族達は椿の次の言葉を聞くのが怖かった。

 なんだこの得体の知れない化け物は。


「次は、受けのお前らを見せてくれ」


 椿が攻勢に出た。


「!?"魔障壁"!」


 玄武は咄嗟に鬼人族の女の子に初級の結界魔法を展開した。


「玄武様!?なぜわたくしを……」


「お前の今は亡き兄と約束したのだ!花恋、お前だけは絶対に死なせないと!」


 鬼人族の女の子の名前は花恋だったのだ。


「若様。今は戦闘に集中を。慈雲と共に仕掛けますぞ」


「虎徹殿の言う通りだ。俺に合わせろ玄武」


 三人が一斉に仕掛けてくる。

 椿はそれを見て思案する。

 玄武は多少魔法を使えるようだが、咄嗟に展開できるのはおそらく中級魔法まで。上級や最上級となると詠唱時間が必要になるか。

 虎徹は技術特化だ。今の椿では武術では絶対に敵わない。

 だが、椿が現在最も警戒しているのは慈雲だ。

 高い隠密能力に奇襲能力。

 本気で殺しにかかってきたら少しやばいかもと思いながら椿も魔力を練り上げる。


「じゃあまずは"完全制御トレース"」


 その瞬間、玄武達は椿が完全に消えたように見えた。

 そして


「まずは一人」


 気づいたら慈雲が吹き飛んでいた。


「慈雲!?」


「若様!今は目の前に集中してください!」


 そう言いながら虎徹は椿に襲いかかる。

 椿は虎徹の攻撃を冷静に対処している。

 しかも少しづつ虎徹が押されかけている。


「……先程とはまるで動きが違いますな。もしや、手を抜いて?」


「そんなわけないだろ。それに、そんなことはあんたが一番わかってる筈だ。さっきのあれが俺の体術の全力だ」


 虎徹は気づいていた。なぜ椿が急にこれほどまでに上手くなったのかを。

 つまり


「呆れたものだ。魔法で無理やり相手の技術を奪うとは。邪道にも程があるぞ」


「そうかもな。でも、これは実際の戦闘だ。そこに卑怯だのそんな言葉はない」


 そう言いながら椿は襲いかかってくる玄武の攻撃にも対処しながら虎徹に攻撃を当てていく。

 そして


「これで二人目」


 ついに虎徹が斬られた。


「虎徹!」


 玄武は斬られた虎徹の名を叫びながら、椿を睨みつける。

 椿の背後では出してと叫びながら花恋が結界を叩いている。


「お前、よくも二人を……」


 玄武は怒りのままに鬼人族としての本来の力を引き出そうとして……


「さて、そこまでじゃ」


 椿の玄武の間に背中から羽の生えたおっさんが現れた。

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