ただし待っていたのは……
気が遠くなるような一本道がついに終わりを迎えた。
「やっと……」
ここから出られる。
そう希望を持って椿は大広間に出たものの、そこはものの見事に行き止まりだった。
「はぁ……はぁ……」
疲れてないはずがない。
疲れないはずがない。
いくら耐性を手に入れようと、ステータスが上昇しようと、異世界チート能力が無ければこの洞窟でここまで辿り着けなかったというのに。
辿り着いた場所が行き止まり。
「もう、疲れた……」
そう言いながら椿は地面に倒れる。
技能不眠不休は寝なくても活動出来る、休憩しなくても動けるだけで、常に万全なわけでもなければ精神的疲労が回復した訳でもない。
このただただ広いだけの場所で椿は意識を手放した。
だが、椿の眠りを許さないものがいた。
『目覚めよ……』
煩い。
地面に倒れ、気力も失いかけている椿はなにかの声を聞いてそう反射的に呟いた。
『目覚めよ……』
再度聞こえる謎の声。
殆ど睡眠状態の脳がそれを感知し、煩わしいと思い、椿はあれ?と思った。
声が聞こえる、と。
そう、本来誰もいない部屋で倒れているのに声が聞こえる。
それを感じ取り、本能的にすぐさま意識を覚醒させると、椿は起き上がった。
すると目の前に
『やっと目覚めたか。我らが用意した試練の一つを踏破した者よ』
ゴーレムが立っていた。
「!?」
目の前のゴーレムに驚きながらも椿は戦闘態勢に入る。
目の前のゴーレムの戦闘力は分からないが、油断しないように初っ端から上級魔法"獄雷"を放ち。
『とりあえず、落ち着いてはくれないだろうか?』
椿の"獄雷"が打ち消された。
「……え?」
椿の魔法はこの洞窟でサキュバスと戦っているうちにどんどん強化していた。
もちろんそんじゃそこらの魔法じゃ相殺出来ないし、"魔断"を使用されても、殆ど問題ないはずだった。
それが完璧に打ち消された。ということは目の前のゴーレムは椿よりも格上だということ。
『まぁ待ちたまえ。このような洞窟で急にゴーレムが出てきたらそれは普通に敵だと疑ってもしょうがないと思う。僕への反応を見た感じ、他の試練は踏破していないみたいだし、まさかこの"色欲の間"を最初にクリアするとは思わなかったけど、それでも試練を一つクリアしたんだ。君の努力を僕は評そう』
ゴーレムが何かを言っているが、出てくる単語のほとんどがわからなかった。
試練?色欲の間?
「……なんの、話し?」
椿が無駄だとわかりながら警戒しつつ、質問をする。
『あれ?試練ってわからなかった?自分の意思でここに来たんじゃないの?』
「違う。魔王軍幹部が使用した魔導具アーティファクトによってランダム転移させられただけ」
椿の言葉を聞くとゴーレムは少し黙ってしまった。
そして
『たとえ偶然だとしても君はこの試練に入り、そしてそれを見事クリアした。なら、その証として僕は君に"色欲の宝玉"の力を与えることはやぶさかではない。けど、その前に少し君に触れさせてもらうね。大丈夫。命までは盗らないから』
目の前のゴーレムはそう言うと、椿の手を掴んできた。
「……本当に、命は盗らないのですか?」
『それが真実かどうかは、君自身が一番わかってるんじゃないかな?』
そうしてゴーレムは椿の手を持って暫くすると。
『君は器ではない』
そう静かに告げた。
「……そうですか」
なんのことかさっぱりだったので椿は適当に反応したが
『まず大前提として君の記憶が完全ではない。昔の記憶が少しだけ抜けているね』
昔の記憶。
椿の記憶は途中からのしかない。
でもそのことをこの目の前のゴーレムが知っていることが信じられなくて……
『さっき君の手を握った時にその魂を調べさせて貰ったよ。君には才能がある。宝玉も受け入れられる。この試練は技能と運だけでクリアできるようにはなってないから。でも、君の魂がまだ未完成だ』
ゴーレムはそう言うと椿に向かって一歩踏み出した。
『僕の名前はバンボラ。九つの試練のうち、"色欲の間"の管理人をしているバンボラ七号だ。君の魂に閉じ込められた記憶をこじ開けさせて貰う』
それだけ告げると、ゴーレムことバンボラは一瞬で椿に接近した。
「!"衝風"!」
その瞬間に、椿は風の衝撃波を出してバンボラから距離を置こうとする。しかし、
『"疾走"』
バンボラも風属性の速度補助魔法で接近してくる。
「"獄光"!」
次は指先からビームを発射してゴーレムの核を破壊しようとするが、
『"転界"』
バンボラは椿の後ろに転移した。
「転移、魔法……」
そして
『さて、まずは君の原点となった記憶。君を形成するのに必要な記憶。それを見せてみよう。さぁ、まずは己の後悔と向き合え』
その瞬間、椿の意識が完全に消失した。
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