VS.魔王軍幹部 リボーン 前編

 最初に動いたのは椿だった。


「"聖者の加護"!」


 上級回復魔法、"聖者の加護"。

 この魔法は範囲内の味方に与える所謂バフだ。

 効果は継続回復、物理、魔法防御上昇。

 この魔法によって生半可な攻撃は通じず、通ったとしてもすぐさま回復される敵からしたら厄介な魔法だ。


「ありがとう上里くん。聖剣よ!我が心に応えよ!」


 光はそう言って聖剣を掲げる。すると、聖剣が光出した。

 それが聖剣に与えられた第一の能力。

 効果は大気中の魔素を吸収して装備者のスペックを最低でも一段階上昇させるというもの。


 聖剣の能力を最大限引き出した光の能力はウルをも上回り、リボーンと肩を並べようとしている。


「いくぞ!はああ!」


 光は自分の能力が上昇するのを自覚しながらリボーンに斬り掛かる。だが、


「単純な攻撃が当たるわけないでしょう」


 光の攻撃はリボーンに当たらなかった。

 そもそも光はまだ戦い始めてからまだ一週間しか経過していない。

 足りなすぎるのだ。戦闘経験が。

 だけども、たとえ戦闘経験が圧倒的に不足していようが


「手伝うぜ!光!」


 光には今頼れる仲間がいた。

 平一は光の空いた隙間を縫うようにリボーンに打撃をしかける。

 それでも埋められない差は


「させるか」


 未だ限界突破状態のウルが対処する。

 リボーンに攻撃されそうになるとウルが合間に入ってリボーンの攻撃に対処しつつ、反撃もする。


 リボーンは三人の攻撃に対処しながらいやらしいタイミングで飛んでくる投げナイフにも対処しなくてはいけない。


 その投げナイフは翔が投擲しているナイフだ。

 王宮に保管されていた魔法道具マジックアイテムによりMPを消費することにより生成された魔法のナイフを投擲している。


 たとえリボーンがナイフを掴んでもリボーンに当たるか、避けられるか、捕まえられた時点で虚空に消えゆくナイフはリボーンの反撃にも使えない。


「三人の連携に加えて投げナイフでの補助。それに魔法による補助も加え、私が攻撃をしても即座に回復。素晴らしい連携ですね」


 リボーンは感心したように言うと、


「では、私もそろそろ全力で御相手しましょう」


「!?お前ら!一旦下がれ!」


 魔王軍幹部の全力。

 その言葉を聞いて、安全策としてウルは光と平一を後ろに下げた。

 だが、それがいけなかった。


「"傀儡の使徒"」


 リボーンは懐から4つの人形を取り出すと、人形に向かって魔法をかけた。


「!?"獄炎"!」


 魔断は間に合わない。そう判断した椿は上級火属性魔法、"獄炎"を繰り出した。

 だが、


「効きませんよ。この人形にはあらゆる耐性を備えさせていますので」


 中から出てきたのは五体満足の4つの人形と無傷のリボーンだった。


「上級魔法。先程の"聖者の加護"もそうですが、発展途上で上級魔法を個人で2発も放つそのMPとこの威力。実に素晴らしいですね。まさか人間族にこれほどまでの逸材がいるとは」


 すると、リボーンは人形を控えさせ、椿に話しかけた。


「そこの魔法使い」


「……なんでしょう」


「あなた、魔王軍側に来ませんか?」


「……は?」


「あなたの能力は魅力的です。上手く育成すればいずれ魔王軍幹部の席も奪えるでしょう」


 リボーンの言葉を聞いて椿は翔を見た。

 翔も意図を理解したようで首を横に振っている。

 嘘感知に反応はなし、か。


「でも、仲間になったらなにか制約があるのでは?」


 その言葉にリボーンは怪訝そうな表情をしたものの、説明を続けてくれた。


「いえ。ただ人間族から怪人族に変成した後に私の部下となって働いてもらいます。にしても意外ですね。寝返らないと思ったのですが。思ったよりも興味があるようで私は嬉しいですよ」


 相手は魔王軍幹部。嘘感知を持っている可能性もあるので椿は下手なことは言えない。


「僕たちは異世界から来たのでこの世界の戦争にはあまり興味が無いのですよ。無事に帰れるのならそれに越したことはありません。さすがに種族を変えられるのは思いませんでしたけど」


 椿はそう言いながら前へと進む。

 今はウルや光、平一に翔の誰よりもリボーンに近い位置にいる。


「なるほど。たしかに種族を変えられることに恐怖は感じるでしょうね。ですが大幅にステータスが上昇することは確約しますよ?」


 そう言いながらリボーンは手を差し出した。


「この手を取ればあなたは私たちの味方にします。もちろん後ろの方々に未練があるのであれば、今は生かして帰すこともいいですよ」


 椿はそのままリボーンに向かって歩く。


「待って上里くん!君が犠牲になることはない!まだ君を含めた全員で帰れる可能性はあるんだ!」


 椿を止めるように光は叫ぶが、それを無視して椿はリボーンの目の前に辿り着く。

 そしてリボーンの手を取ろうとした。


 その光景を見て、リボーンは薄らと笑みを浮かべ、光は叫び、平一は困惑し、翔とウルは悔しそうな表情を浮かべた。

 そして椿はリボーンの手を取ろうとして、その直前リボーンに向かって手のひらを向けた。


 瞬間、椿の手のひらから膨大な熱量を伴って炎が放出された。


「上里?寝返るんじゃないのか?」


 翔が困惑したように椿に話しかけると


「寝返る?そんなわけないでしょ」


 笑いながら翔の言葉に対応した。


「あなた、まさか全員で死ぬと言うのですか?」


 死ななかったものの、不意打ちの魔法によりかなりのダメージを受けたリボーンが歩きながら問いかけてくる。


「みんなで死ぬ?そんなわけないでしょ」


 そう言いながら椿は魔力を練り直す。


「この閉じ込めてる結界。この結界はあなたから常にMPを供給することによって強度を保っている結界だよね。なら、君にそちらの対処をする暇もないくらい追い詰めればいつかは脱出できる」


 そして椿はリボーンをその目に確かにとらえながら宣言した。


「さあ、反撃の開始だ」

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