力を合わせに

 魔王軍幹部リボーン。

 それが挨拶すると同時にウルは動いた。


「総員!全力で王都まで逃走せよ!」


 ウルはわかっていた。魔王軍幹部の強さを。

 翔や蕾の戦力感知を疑っていた訳では無い。むしろ信頼していた。

 しかし、彼らを育てたのもまたウルだ。

 故に正確に二人の力量を理解していた。

 戦力感知はなにもステータスだけで強弱を判断する訳では無い。

 精神面や技と駆け引きをもって己との戦力差を判断する。

 彼らにとっては光や椿も強敵と判断されるし、ウルや騎士数名も強敵と判断される。

 光と椿はステータスや技術から。

 ウルや騎士たちはそれに加えて実戦経験などによって判断された。


 だから強敵と言ってもどれほどの強敵か判断できなかった。

 そしてそれが命取りになった。


 油断した。それがウルの致命的ミスである。


「逃がすとでもお思いですか?」


 瞬間、空気が変わった。


「全員止まれ!おそらく結界を展開された。閉じ込めるための結界だと破り抜くのは困難だ」


 ウルは逃げようとしていた生徒たちにそう言いながら覚悟を決めた。

 そしてリボーンに向かって剣を向けた。


「エスポワール王国の騎士団長ですか。ここ数年は人間とは禄に戦いませんでしたからね。お手並み拝見させていただきますね」


 そしてエスポワール王国近衛騎士、騎士団長ウル・ジュエリーヌと魔王軍幹部リボーンの戦闘が始まった。


 一方その頃


「どうする光!」


 平一は光に指示を求めた。

 ウルがいない場合はこの場でウルの次に強い光の指示に従うように言ってあった。


「落ち着いて平一。まずは結界を本当に破壊できないか調べないと」


「もう、調べたよ」


 光が結界について調べようとしたところに、椿が調べ終えたと報告した。


「上里くん。それは本当かい」


「うん。でも破壊は無理。結界を突破できる魔法はあるけどこの魔法の強力さだと今の僕の魔力と残量MPでは足りない」


「上里、それは索敵によってMPを消費したとかじゃなくてか?」


「うん。この杖に貯めてあるMPまで引き出して、尚且つ僕のMPがひとつも消費されてない場合でも結界が強力すぎて突破できない」


 椿のその言葉にほとんどの人が絶望した。

 椿の魔力とMPは折り紙付きだ。

 その魔法の才能は誰もが認めている。

 だからことこの結界の内部にいる人だけじゃこの結界は突破できないということを。


「でも、この結界を破る方法はまだある」


 だからその次に続いた椿の言葉は信じられなかった。

 今しがた突破不可だと本人が断言したというのに、まだ可能性があるというのだ。


「冗談じゃ、ないんだな……」


「うん。可能性はすごく低いけど、でも全員で生きて帰れるかもしれない」


 力強く頷く椿のその顔を見て全員が希望に満ちた目をした。


「教えてくれないかい上里くん。その方法を」


 全員の希望に満ちた眼差しを受けながら椿は口を開いた。


「その方法は……」



 □■



「流石王国の騎士団長!中々いい腕をしている。ステータスは兎も角、技術ならばお前の方が上だろうな」


「そうか?俺にはそうは思わないが、な!」


 リボーンの皮肉に答えながらウルは剣を振るう。

 戦闘が始まってからまだ10分も経過していない。

 気配を感じ取ったところ、どうやら他の騎士や光たちは未だ避難できていないことが伺える。


「お前が展開している結界。どうやら相当硬いようだな」


「ええ。最近開発した結界ですが、実戦で使える機会ができて本当によかった」


 リボーンは剣の他に魔法も織り交ぜながら戦闘を行っている。

 それに対してウルは剣のみだ。魔法を使えないことは無いが、実戦向きでは無い。

 だから


「短期決戦だ」


 切り札をきる。


「なにを……」


「限界突破だ。無論知っているだろ?」


 技能,限界突破。

 それは悪魔族や天使族には使えないとされている地上世界に住まう生物の切り札とされている技能。

 使用すると膨大なMPの消費を代償に、様々なスペックが上昇する技能だ。

 古にはそれより上位の極限突破という技能が存在したというのがあるが、審議の程は定かではない。


「限界突破……やはり、騎士団長ならば持っていますか」


 そう言いながらリボーンは一歩下がった。


「私は魔王軍幹部最弱でしてね。禁域解放は未だ使用できないのですよね」


 そう言いながらゆっくりと魔力を練る。


「させるか!」


 ウルは限界突破で上昇したスペックを用いて急接近を試みるが、


「"風爆"」


 リボーンを中心に不可視の爆発が起こった。

 中級風属性魔法、"風爆"。

 それを自分も巻き込みながら発生させることによってウルを吹き飛ばしたのだ。


 リボーンは悟ったのだろう。

 風爆の被害よりもウルの攻撃の方がダメージが大きいと。

 故に自分を犠牲にすることを選んだ。


「では、そろそろ終わりにしましょう。ご心配なく、後ろに控えている人達はあとでしっかりと殺しておきますので」


 そう言いながらウルに手のひらを向けた。


「では、さようなら。"生食"」


「"魔断"」


 ウルを蝕もうとしていた上級闇属性魔法、"生食"は、同じく上級闇属性魔法、"魔断"によって防がれた。


「ナイスだ上里」


 そう言いながらウルを回収したのは宇都宮 翔だ。


「翔、なにをしている。さっさと……」


「逃げろ、ですか?残念ながらそれができないようなので微力ながらお手伝いに、ですよ」


 翔はそう言いながらリボーンをその瞳に捉える。


「ほう?後ろで恐怖で縮こまっているだけの小虫ではないようですが……」


「俺だけだと思ったら大間違いだぞ」


 翔のその言葉が合図だったかのようにリボーンに攻撃がしかけられた。


「"光破"!」


「"氷雨"!」


 上が光で下が椿の魔法だ。

 "光破"による聖剣から光の斬撃を放つ光。

 杖の補助により威力が強化された氷の雨を降らせる椿。

 その隙に


「くたばれ!」


 光と氷の弾幕により姿が微かに隠された平一が技能の効果も使用しながら手に装備したガントレットの衝撃波と共にリボーンを殴り飛ばす。


「ぐふっ」


 そんな声を吐き出しながらリボーンは吹き飛ばされた。


「お前ら、なぜ逃げない?」


「リボーンを倒す、または弱らせることが一番全員が生き残る可能性が高いと思ったからですよ」


 椿はウルにそう言いながらリボーンの姿を捉える。

 やはり先程の平一の攻撃はほとんど効いていないようだ。

 だが、


「攻撃が通じない訳ではない」


 そう言いながら光が聖剣を構える。


「その姿が捉えられないわけではない」


 翔も己の得物を構える。


「手応えも確かにあった。ならいつかは突破できる」


 豪快に、平一も拳を構える。


「よし。じゃあこちらの最大で相手に答えよう」


 椿も杖を構えながら魔法の準備を始める。


「さあ、勝負だリボーン」

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