心深海

霧這

薫衣草(くんいそう)に埋もれる

 息苦しいので瞼を柔開じゅうかい

 暗黒 艶無漆黒つやなしっこく

 さながら全面水族館の硝子壁ガラスへき

 スノウドームを象る

 頭上に夕暮れ六つ時の常夜灯こだま点す

 向こうで満天星に裏切られたじぶん睨むは

 捕ら鋏と鋸の歯をあた怪物けものらが壁を

 足下あしもとの硝子越し白薄明しろはくめいの花々揺らぐ

 怪物らが打つを鈍く轟かせた頃

 丸呑み 共喰い捕食する

 恟恟きょうきょうする我のすがたは脳髄に一縷ない奄籠ふくろ小路

 畏怖いふするあまり後退り

 瞬間 円くやんわりしたもの踏み外しそら返り

 床に鈍い音が届く


 暖かな日差しは微睡まどろみに眩しい

 柔開 ほおに水気がしみ

 日常の場所に自己じぶんという存在

 憂鬱に響く外の子供と小鳥の群声ぐんせい

 午後の再間あいまの馨りが

 鼓動の勢い伝う全躰ぜんしんを包む頃

 スープの匂いで胃が音鳴ねなる九つ半

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心深海 霧這 @Sachi8hyA9sya7

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