第8話:困ったときのゲーム知識

「具体的にはどうするの?」


 順調にライバルヒロインズとの協調が決まり、わたしたちはそのまま作戦会議をする運びとなった。

 ミリアの疑問にメアリーがピンと手を挙げて注目を集め応えた。


「はい、基本的には一組ずつカップルが成立するように他の人が支援する流れでいきたいです。これを繰り返して私達4人全員が望むお相手とお付き合い出来ればゴールですね。」


「一人ずつ攻略、ね。賛成よ。ただ漫然とお互いの恋を応援するよりはその方がハッキリしてて良いわ。」


 メアリーの提案をわたしが認めるとミリアとセレストも肯いた。


「それにしても『攻略』とは、まるで戦のような言い方だな。」


 う、しまった。ゲームのノリでつい言ってしまった……。


「恋愛は戦いなのです。意中の男性の心を射止めるのは、敵陣を落とすのと同じだと、そういうことですよね! エリザベット様!」


「え、ええ、そうです。それくらいの心構えでいこうと、そういうことです」


「なるほど、勇ましいな。積極的な姿勢は味方としても心強い。うん、私個人としてもそういう姿勢は好きだよ」


 小娘にフォローされてしまったのは癪だけど、うまいことごまかせたからよし。今は現実なのだからゲーム気分が出ないように気をつけないと。

 セレストの発言が終わると、今度はミリアが手を小さく上げた。


「どうぞ、ミリア」


「一組ずつ、なら、順番は?」


「順番ねえ……」


 『Magie d'amore』では攻略対象との仲が大きく進展するキーイベントがそれぞれにある。キーイベントが起こる時期は

 ローランルートのキメライベントが6月

 ノエルルートの監禁イベントが8月

 カルバン様ルートの決闘イベントが10月

 テオフィロルートの実家イベントが12月

 ロミニドルートはそれっぽいものがないが卒業式の襲撃イベントで告白だから3月かな?

 攻略対象のイメージや、メディアミックスでの利便性を考えて時期は被らないようにしてあるらしい。それぞれの攻略はキーイベントがある時期が適しているでしょう。テオフィロは無視していいから……


「まずセレストさんとローラン様、次に貴女とノエル様、わたしとカルバン様で、最後にメアリーとロミニド様。それでいいかしら?」


「そうですね。私は最後で構いません。正直今のままでは身動きが取れませんから」


 軽くこちらに目配せしてメアリーが言った。キーイベの順番を知っているのだから賛成するのは当然ね。


「平民、発案者のメアリーが最後。協力を呼び掛けたエリザベット様が3番目、家格が高く先輩のセレスト様が1番。わたしはその次。悪くない、です」


 イベントの順番に沿っただけで何も考えてなかったのだけれど、ミリアがいい感じに解釈してくれた。家格とか考えてなかったからただの偶然なんだけどね!


「私も異論はない。最初に回してくれるということなら有り難いことだ。しかし、エリザベットはそれでいいのか?君のことだから、『最初はわたしにしなさい』と言うかと思っていたが」


 言われてみればそうかもしれない。しかし、ゲームのイベントの順番です、なんていう訳にもいかないから……ここは小粋な自虐ネタで誤魔化しましょう。


「ええ、わたしが最初でももちろんかまいませんが……わたしとカルバン様が結ばれるのを待っていたらいつまでたっても次の順番は来ませんよ?」


「……すまない、無神経だったな」


「あの、真顔で謝るのはやめてください……。今のは笑うところです……」


 そう言うとメアリーがくすりと無駄に可愛らしく笑った。


「ふふっ。エリザベット様ったら冗談がお上手ですね」


「はぁ? 喧嘩売ってるの、貴女?」


「売ってません! エリザベット様が笑うところだって」


「確かに言ったけど、元凶に笑われるのは腹立たしいのよ!」


 まあ、ともかくこの順番で異論はないようだ。コホン、と咳ばらいを一つおき、まじめな話に切り替える。


「順番については全会一致で決定ですね。セレストさん、貴女から攻略をはじめていくわけですが、実際ローラン様との関係はどうなっていますの?」


「そうだなぁ。」


 問われたセレストは腕を組み考え込むように目を伏せた。


「子息令嬢が集まるような催しだと、よく一緒にいる」


「私も学園で楽しそうに談笑されてるところを幾度かお見掛けしました。ローラン様はあまり笑われない方なのでよく覚えています。」


 わたしの認識ではローランは“あまり”どころか“全く”笑わない男だ。メアリーの前だと偶に笑うのかしらね。流石主人公、小癪な。


「有り難う。そうだな、嫌われてはいないし、どちらかと言えば好かれているとも思う。しかし……昔語りになるが、ローランとは幼いころからよく共に遊んだし、共に稽古もした。模擬戦ではよくコテンパンにしてやったものだよ。子供のころは1年の差が大きかったし、女子の方が体ができるのも早かったからな。」


 ゲームで見たイラストを思い出す。勝ち気な笑みを浮かべた幼いセレストが叩きのめした幼いローランの前で腕を組んで仁王立ちしていた。きっとあの通りのことが彼女の過去にあったのだろう。


「楽しい……少なくとも私にとっては楽しかった思い出だが、甘い雰囲気は全くないな……。。だから、彼には異性としてではなく家族か、あるいはライバルのように思われているだろうさ」


 楽しいと言いかけて言葉を付け足したのは加害者意識があるからだろうか。自嘲気味なニュアンスすらあったけど、貴女そんなにローランをボコボコにしたの……? まぁ確かにそれだと恋愛対象には見られていないかもしれない。特にローランは姫を守る騎士のような男だからなおさらだ。


「でしたら、まずはローラン様にセレストさんを女性として意識させるのが先決ね」


「色仕掛けでもしてみるか?」


 直球! 一番にそれとはセレストさん恐るべし。


「ローラン様、真面目ですからそういうのは逆効果かもしれません……。ここはプレゼントなんかどうですか?」


「プレゼントは友達や家族でも送る。関係を変えるには不足。セレストはかっこよすぎるかもしれません。イメージチェンジ、する? ガーリーに、可愛らしく」


 フリフリした可愛らしい衣装を着たセレストを想像する。

 似合わないわね。


「それよりここは──」


 意見は出る、がどれも決め手に欠け無駄に会話がぐるぐると回る。やがて提案も尽きはじめ、最後はみな黙ってしまった。ダメだこりゃ。


「これ以上続けても意味がないわね。セレストさんのアピール方法は宿題にして、今日はお開きにしましょうか。」


 ホストの責としてわたしが閉会の声を掛ける。行き詰まっていたこともあり、二人は口々に別れの挨拶をして、すんなりと帰って行った。しかし、メアリーは一向に帰ろうとするそぶりを見せない。ぶぶ漬けでも出してやろうかしら。


「あの、エリザベット様……」


 メアリーはちらちらとサラを気にしながらなにやらこちらに訴えかけてくる。

 前世の話をしたいからサラを退室させて欲しいってことかしら。


「サラ、申し訳ないのだけど、」


「承知しました。ご用があればお呼び出しください」


 うん、言い終わる前に察して離席してくれた。まあ、メアリーだけと内緒話するのもこれで三度目だしね。

 サラが部屋を出るのを確認してわたしが話し始めようとする、と、わたしより先にメアリーが元気よく手を挙げた。なんか楽しそうね、この子。

 しかし、威勢の良いその腕を手のひらで押し戻し、わたしから話させて貰った。楽しそうな様子が気に障ったわけでもないけど、先にこっちから確認したいことがある。


「ゲームだとローランルートのNORMAL ENDでローランはセレストと付き合ってたわよね? 他に条件とかあったかしら?」


「特になかったローラン-セレスト間での条件などは特になかったはずです。主人公メアリーがルートに入った後、最終判定時点で好感度が足りなかったり必須イベントを取りこぼしたりしているとNORMAL ENDになってお二人が付き合うことになります。他の方のルートではお二人のその後はわかりませんが、その場合でも描写がないだけで付き合っているのではないでしょうか?」


 ゲームの進行に関わらずローランは伴侶がゲットできるということだ。BAD ENDもほとんどないし、この世界ゲームエリザベットわたし以外に優しい。

 何もしないでローランとセレストが結ばれるなら楽で結構なことだが、不安もある。ローランからメアリーへの好感度がかなり高く見えるからだ、今はまだ序盤なのに。


「ねぇ、そんな消極的な方法でうまくいくと思う?」


「無理でしょうね……ゲームだったら拒否と無視を続ければローランの好感度を落とすのも簡単ですが、今の私の立場でローラン様を避け続けるのは身分的にも無理がありますし、これでは成就までに一年かかってしまいますから他の方に着手できません。なにより私がたち目指す完璧なハッピーエンドと合いません」


 積極的に動かないとだめってことね。


「じゃあ、ゲームで主人公がやったことをそのままセレストさんにやって貰えばいいんじゃない?」


「わたしがやることをですか?」


「ええ、ゲームでは主人公が失敗すると二人が付き合う。逆に言えば主人公が正解を選び続ければ、ローランは必ず主人公に惚れるってことでしょ? だったらそれをセレストさんがやれば良いわ。まあ、同じことでも違う人がやれば印象も変わるだろうし、そう単純ではないでしょうけど、基本方針はこれでいいんじゃないかしら」


「なるほど、素晴らしい着眼点です。流石はエリザベット様!」


 そう言ってメアリーは顔を輝かせた。なんだか雑に持ち上げられた気がするのだけど、表情を見る限りどうも本気で誉めてるみたいなのよね……。正直、悪い気はしない。


「では、ローランルートについて確認していきましょうか」

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