過去の自分と向き合う今
九八
「以上のことを常に意識してここ星見高校の生徒であると自覚しながら生活していただきたい」
校長先生の話が終わるとまばらな拍手が体育館に鳴り響く。
「あ〜、やっと終わった」
面倒だった入学式もようやく終わりこれから自分の教室に移動することになる。
「それでは生徒の皆さんはクラスごとに移動を開始してください」
ステージ上の先生の指示でA組の生徒たちが移動をはじめた。
自分のクラスであるG組はまだしばらく先になりそうだ。
「G組の生徒たちは移動を開始してください」
「ん、もうG組か、意外と早かったな」
呼ばれるまでしばらく一人でぼーっとしていたらG組の順番が回ってきていた。同じG組と思われる生徒の集団の後ろについて移動することにする。
移動中、前を歩いている人たちは楽しそうに近くの人と会話をしている。同じ中学の人だったんだろうか。やっぱり他の人は同じ中学の人が多い高校を選んでいるんだろうか。
と、考えていたら人の波が急に止まった。どうやら教室についたらしい。G組の教室はコの字型の校舎の縦の線、そこの二階の端から二番目にあった。
教室に入ると黒板に座席表が貼ってありどうやら出席番号の順に席が決まっているらしく
自分の席に座りしばらく周りを見ていると担任の先生と思しき若い女性の先生が教室に入って教卓の前へと歩いてきた。
「皆さんこんにちは、私がここ一年G組の担任の
担任と名乗った真桐先生はパッと見20代後半位の女性の先生で、元気そうな笑顔を浮かべていてその笑顔を見ていると自然と元気が出てくるような人だ。
「さて、これから皆にプリントを配って説明したあとは自己紹介をしてもらいます」
先生はそういった後教室に入ってきたときに持っていたプリントを列の一番前の人に配り始めた。前の人はプリントを受け取ったあとプリントを取り後ろの人へと回していく。プリントが回ったことを確認した先生はプリントの説明を始めた。まぁ、その内容は年間の予定表とかそんなのだった。
先生の説明が一通り終わったところでゴホンッ、と咳払いを一つしてから、
「さて、今からお待ちかねの自己紹介タイムです!」
先生の言葉にノリのいい生徒がイェーイ!と声を上げた。おかげでクラスの雰囲気が自己紹介のためのものに切り替わりどんなことを話そうかと仲のいい人と相談を始めていた。かくいう俺は仲の良い人なんていないので一人で考えるわけだが。
「まあ、変に気取らずにやればいいか」
ここで変なことをすると下手すれば一生笑い話になりかねない。
「はい、では出席番号一番の人から順番に自己紹介してね」
先生に促され俺の前に座っていた生徒が立ち上がり自己紹介を始めた。前の人が終わるとすぐに俺の番となり立ち上がってから後ろを向いて自己紹介を始める。
「天城陽太です。これからよろしくお願いします」
終わるとパラパラとまばらな拍手がなる。少しの緊張感からの開放を味わいながら座ろうとしたときクラスの中に見知った顔があった気がした。その相手は何かに驚いたような表情をしていたが、イマイチ思い出せない上にここに同じ中学のやつが居ると思えないのできっと気のせいだろう。
(もしかしたら知ってるやつかもしれないし名前はよく聞いておこう)
しばらく自己紹介が続いていきようやく半分を少し過ぎた位にさっきの相手が立ち上がった。
「こんにちは、
月美と名乗った生徒は肩に少しかかる長さの綺麗な黒髪の女子生徒でなかなかに可愛らしい顔立ちをしている。
しかし、やっぱり月美奈留という名前は聞いた覚えがないな。驚いていたように見えたのは気の所為だったのだろうか。
その後も自己紹介はつつがなく進行し休憩時間へと移行した。そして入学早々の放課後とは仲良くなれそうな人との連絡先の交換やこのあとの親睦会と称したカラオケなどの約束を行いこれに乗れなかった人は暗黒とも言える高校時代を過ごすことになる。
……まぁ、偏見であると否めないがここが大事であるということはわかると思う。じゃあ、そんな大事なタイミングで俺は何をしているかというと、
「……」
机に突っ伏して寝たフリである。
暗黒時代になってもいいのかと言われても、もう暗黒時代みたいなものなのでもういいかな、と。
そんなことを脳内で考えていると何やら足音が近付いてきている。
(わざわざ、寝たフリをしている人に話しかけようとする人は居ないだろうし多分近くの人に用があるんだろう)
そう思っていたのだが件の足音は俺の近くで止まった。何かと思い顔をあげると、そこには居たのは先程の女子生徒、月美奈留だった。
「あ、やっぱり寝たフリだったんだ。天城君は友達と話さなくていいの?」
「あー、月美さんだっけ。まぁ、ここに友達はいないから話す相手が居ないんだけどね」
「そうなの?だったらなおさら積極的に話しかけなきゃ!友達は作ろうとしないと作れないよ?」
どうやら月美さんは本当に俺に用があったらしい。用があるというより気を利かせてくれている感じだが。
「それはそうなんだが、あまり積極的に友達を作ろうと思わないんだ」
「えー、せっかく高校に入れたのにそれはもったいないよ。あ、ならせっかくだし私と連絡先交換しない?」
「連絡先の交換?」
「そう、私天城くん以外の人ともう交換してるんだ。だから天城くんとも交換したいし、一人だけでも交換してると色々楽になるよ。」
……ここまで気を遣わせてしまうのも気が引けてしまうな。
「わかった、ありがとう月美さん。気を遣ってくれて」
「ううん私が仲良くなりたいと思ったから話しかけただけだから。」
そう言ってスマホを取り出す月美さん。俺もスマホを取り出し連絡用のアプリを開く。
連絡先を交換しながら俺は先程の会話の気になった所を聞いてみることにする。
「そういえばさっき俺以外とはもう交換したって言ってたけどホントなの?」
こんな短時間で全員と交換できるものなのか?出来るならどれだけコミュ力高いんだ。
「うん、そうだよ。皆ともう交換してるんだ。」
「凄いな、月美さんは。そんな簡単に人と仲良くなれるものなのか」
「あはは、簡単に、じゃないよ。私だって昔は人と話すの苦手だったんだよ?」
「そうなのか?」
「うん、昔は人の顔もよく見れなかったし、話し掛けられても上手く返せなかったんだ。でも、皆と仲良くしたいって思ってたから頑張って出来るようになったんだ」
……努力でここまでできるようになるのか、本当に凄いな。
そうして月美さんと話していると始業のチャイムがなった。
「あ、授業始まるね。じゃあ天城くんこれからよろしくね」
こうして月美さんと連絡先を交換した俺はその後のホームルームも終わり放課後へと突入していた。
他の生徒はどうやらこの後カラオケへと向かうらしい。俺はというと正直カラオケに行きたいと思わないので声をかけられる前に帰ることにした――ところで、月美さんに声をかけられた。
「天城くんはカラオケ行かないの?」
「あー、まぁ。歌うのあんまり得意じゃなくてね」
「……そっか、わかった。じゃあ次の登校日にまた会おうね」
それが断る理由ではないことを月美さんは気付いていただろう、それでも何も言わずに納得してくれた。
それを有り難く思いながら月美さんに返事をして帰路に着いたのだった。
帰路についている間今日あった出来事を少し思い出していた。
「……今日は月美さんに気を遣わせてばかりだったな。」
思い返すと一人でいた俺に話しかけて連絡先を交換してくれたり、クラスのカラオケに誘ってくれたりしてくれている。
わざとそのように振る舞っている分余計に月美さんに悪く感じてしまう。それに月美さんは簡単に懐の中に入ってきてしまう。月美さんはそういう力が強い人だ。
「これからは気を遣わなくて良いと伝えておかないと」
このままずっと流されたまま関わるといつあの頃のようになるかわからない。そうなる前に辞めてもらわないと。
そう決意を固めながらあと少しの帰路へとついたのだった。
次の日、教室に入り席へとつくと早速月美さんが話しかけてきた。
「おはよう、天城くん。よく眠れた?」
「おはよう、月美さん。そこそこ眠れたよ」
「あは、なら良かった。高校に入って最初の授業だもん居眠りなんてしちゃ駄目だよ」
こうして気軽に話しかけて来てくれるのに気を遣わなくていいと言うのも少し憚られるが仕方がない。
「月美さん昨日からだけどそんなに気を遣ってくれなくても大丈夫だよ」
「ん?天城くんはそんなこと気にしなくてもいいよ。私がしたくてしてることだし」
「いや、でも、俺が悪いと思ってしまって」
「んー、そう?なら話しかけるだけにするね!」
それでも話しかけてくれる時点で気を遣っている事になるだろうし、結局それでは意味がない。
「いや大丈夫だよ。月美さんは他の仲のいい人と話してくれて」
「んーー。……天城くんは話しかけられるの嫌い?」
痛いところを突かれてしまった。確かに会話はしたくないがそれを正直に言うのもどうなんだろうか、傷付けてしまわないだろうか。……でも言わなければあの頃と同じようになってしまうかも知れない、なら俺は正直に言うことにした。
「……えっと、はなしかけるのが嫌いというか会話をするのが嫌っていうか」
「そっか……なら!会話するのが好きになれるようにいっぱい話しかけるね」
駄目だった、月美さん、会話が嫌って言っても話しかけてくるような人だった。
「いや、それも大丈……」
大丈夫、と言いかけたときチャイムに遮られてしまった。
「あ、もう授業始まるみたい。また後で話そうね!」
そう言ってさっさと自分の席へと戻ってしまった。
「結局駄目だったか」
このまま話しかけるなと言っても聞かなそうだ。
なら……、
「これ以上仲良くならないようにしないと」
その後も月美さんは暇があれば俺に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、天城君は昨日のテレビ見た?最近人気のお笑い芸人の人が出ててすっごい面白かったんだよ!」
「ああ、いや最近テレビ見てなくて……」
「え?そうなんだ……。テレビでも面白い番組一杯やってるから、暇だったら見てみなよ!」
「うん、時間があったら見てみるよ」
また別の日にも月美さんは話しかけてきて、
「天城君って、いつも本読んでるよね。なんて本読んでるの?……へぇ、ライトノベル?面白かったら私も買おうかな」
「ねぇ、天城くんて放課後何してるの?授業終わるとすぐ帰っちゃうからいつも何してるのかなって気になって。……家に帰ってゲーム?どんなのやってるの?教えて!」
こうして月美さんに話しかけられる生活が一ヶ月ほど続いた。その間にも俺は月美さんと関わらないよう教室の外に出たり話し掛けられてもそれとなく会話を切り上げたりしたがそれでも月美さんとの関わりは変わらなかった。
このまま月美さんとの関係を続けているとあの頃と同じになってしまう。
……いや、月美さんはもしかしたらあいつらとは違うのかもしれない。これだけ話しかけてくれるんだ月美さんはあいつらのようにならないかもしれない。
……だけどもし、月美さんもあいつらとおなじだったら?俺は信用した人に同じ事をされても大丈夫なのか?
……そう考えると怖くてたまらなくなる。これ以上仲良くなるのは怖い。
今度こそ覚悟を決めて月美さんとの関係をやめなければ。
次の日、登校してきてすぐに月美さんは話しかけてきた。
「ねぇねぇ天城くん、今日の放課後何だけど……」
「月美さん、もうこれ以上話しかけるの辞めてくれないかな?」
「え?えっと……な、何でかな?」
「話しかけられるのは迷惑なんだ。これ以上話しかけて来るのをやめてくれ」
そうハッキリと告げた。悪いと思いながらもそれは俺にとって必要なことだからだ。
そう自分に言い聞かせながら月美さんに顔を向けると……泣いていた。
「そっか……。私に話しかけられるのは迷惑だったんだね。……分かったもう話しかけるの辞めるね。」
そういった後月美さんは教室を飛び出していってしまった。
残った俺はしばらく呆然と月美さんが飛び出していったドアを見つめていたが我に返るとドアから目を逸らしたのだった。
その日から月美さんは俺に話しかけることはなくなった。同じクラスである以上顔を合わせはするのだが気まずそうに顔を逸らされてしまう。クラスで話をする人もいないから学校へ来てもただ授業を受けて帰るだけ。家に帰るまで一言も話すことはない。そんな日が何日も続いた。
……これで良かったんだ。本来俺が高校生活で望んでいたことは今のような誰とも関わらない生活だった。
それを月美さんに少し乱されただけ、これが俺のしたかったことだ。自分にそう言い聞かせた。
そんなある日俺は母親から買い出しを頼まれて近くのショッピングモールへと来ていた。本来なら人の多いショッピングモールなんかには来たくなかったのだが忙しそうな母親に頼まれてしまっては仕方がない。
「まぁ、知り合いになんてそうそう会うことはないだろう」
そう高を括ってショッピングモールのスーパーへと向かっていると、
「……天城?」
……会ってしまった。しかもショッピングモールに来たくなかった原因の人物だ。
「よう、久しぶりだな!中学卒業してからか?」
「そうだな、久しぶりだな」
こいつは
「いやー、中学卒業してから全然会ってなかったからどうしてるか気になってたんだよ。高校生活はどうだ?楽しくやってるか?」
「……まぁ、楽しくやってるよ」
……何でお前がそんなことを聞いてくるんだ。お前の、お前らのせいで俺は近くの高校へ行けず、家の近くを歩くことができなくなったんだ。それなのに『楽しくやってるか?』だと?どの口が言う。
「そっか……、良かった。」
「良かった?」
「あぁ、お前中学入ってから小学校の頃とガラッと印象が変わって誰とも喋らないようになったから高校でもそうなのかな?って気になってな」
……は?こいつは何を言っているんだ?その原因であるこいつがなぜ気にする。
余りにも無責任なその言葉に堪忍袋の緒が切れてしまった。
「一体誰のせいだと思ってるんだ」
「え?」
「一体、誰の、せいでこうなったと思ってるんだ!」
「えっと……。どういうことなんだ?」
ついカッとなって叫んでしまったが東雲は本当によくわかってないようだ。あれ程悩んでいたことがこいつにとっては気にするようなことではなかったことだと知りまた腹が立ってくる。
「どういうことだと?お前らが俺のことを無視したんだろ!」
「無視ってそんなこと……」
「しただろう!お前らのせいで俺はずっと悩んだんだぞ!それなのにお前は……!」
「ごめん!」
感情のままに東雲に怒りをぶつけていたら急に頭を深くさげ謝られてしまい、呆気にとられてしまった。
それから自分がなぜ謝ったのかの理由を話しだした。
「確かに中学の時、お前のことを小学校の時と変わらない、成長していないって見下してたんだ。それがお前にとってどう感じるかを何も分かってなかったんだ。それでお前を傷つけてしまったなら謝る、ごめん」
東雲の話は俺が中学の時ずっと悩んでいた事の理由だった。急な話で怒りも冷めてしまったのでどういうことか聞いてみる。
「俺のことを見下していた?」
「あぁ、身勝手な話だが小学校の時いつも人気だったお前の上に立ったって良い気になってたんだ。でも俺も高校生になって、少し大人になってわかったんだ、そんなことをしても何も意味ないって」
「そうか……」
「それでお前を傷つけていないかずっと気になっていて……」
案外俺がずっと悩んでいたことはもう解決していたのかもしれない。他の奴らも同じ理由で、同じく反省しているかはわからないがこいつ、東雲に関してはこうして反省して直接謝ってくれた。
……もう気に病むことはないのかもしれない。東雲も大人になったと言っていたし俺も大人になるべきかもな……。
「分かった。頭を上げてくれ
「天城?」
もう気にしないと決意を表すべく友人の呼び方を昔の仲の良かった頃へと戻す。
「確かにあのときは急に無視されて辛かったしずっと悩んでた。でもこうして反省して謝ってくれたんだ。もう気にしないよ」
「天城……。ありがとう」
こうして中学からの悩みは拍子抜けするほどアッサリと解決してしまった。
「ところで朝日」
「ん?どうしたんだ?」
「……周りから凄い見られてる」
「……あ」
あんなに叫んだり頭を下げたりしていて目立たないわけがない。だがその目は迷惑に思うというより、生暖かい目をしていて実に居たたまれない。
「じゃ、じゃあ俺はお使いあるから」
「お、おう、また会おうな、陽太」
面映ゆい気持ちで手を降って朝日と別れることにする。別れ際朝日もあの頃の呼び名で返してくれた。
……これからも仲良くできるといいな。
次の日、学校へと登校してきた俺は教室へ入るなり月美さんのところへ向かい、
「ごめん月美さん!」
頭を下げ謝罪した。
授業の準備をしていた月美さんは急に謝られたことで目を見開きながら驚いていた。
「どうしたの?天城くん」
「ほら、あのー、話しかけられるのは迷惑だって言っただろう。その謝罪と言いますか……」
「あ、あのときの」
「うん、あのとき、月美さんのこと傷つけてしまって本当にごめん」
昨日、朝日と話をし大人になる、そう決めた以上絶対にするべきと思ったことをすることにした。正直にここで月美さんに責められても受け入れるつもりだったが、
「ううん、大丈夫だよ。もう気にしてないから」
月美さんはそう言って俺のことを許してくれた。
「……本当に?」
「うん、こうして謝ってくれたから」
「……そっか、ありがとう」
だが月美さんはあんな酷いことをした俺も許してくれる人、こんなにも立派な人に謝罪だけでいいのだろうか?いやまだ俺は自分が許せない。
「だけど、やっぱり俺のしたことはそれだけで許されちゃ良くないと思うんだ。だから、俺になにか償いをさせてくれないか?」
自己満足でしかないのだろう。だがこれも決意を表すことの一つだ、月美さんの要望がないなら俺がなにか考えよう。
「償い……」
月美さんは少し考えているようだ。
「なら、私と改めて仲良くなってくれないかな?」
「……そんなのでいいのか?」
もっと難しいものでも何でもやるつもりだったんだが……。
「そんなのじゃないよ。仲良くなるのってすごく難しいんだ。ただ一緒にいたり、遊んだりするだけで仲良くなれるわけじゃない、もっと心を通わせるそんなことが必要なんだよ。」
努力で多くの人と仲良くなることが出来るようになった月美さんらしい罰だ。
確かにそれがいいのかもしれない。
……やっぱり月美さんには頭が上がらないな。
「分かった、改めてよろしく月美さん」
「うん、よろしく」
こうして改めて月美さんと仲良くなることができた。
これで一件落着だ、
「でも、」
と、思ったんだが月美さんはまだなにかあるようだ。やはりまだ罰が軽かったと思ったのだろうか?ならば俺は大人しく従おう、と、決意を新たにしていたら。
「私のことは奈留って呼んでほしいな」
「……え?」
「だから私も陽太くんって呼ぶね」
呼び方の話だった。確かに仲良くなったら呼び方を変えるのはいいのかもしれないが……。
「それだけ?」
「うん、呼び方を変えるだけで心の距離がぐっと近づくんだよ。だから、ね」
「……うん、分かったよ。これからよろしくね奈留さん」
「うん、よろしくね。陽太くん」
これで本当に一件落着だ。
中学との因縁も、高校での悩みももう終わったんだ。
これからは俺も高校生活を心置きなく送ることができるだろう。そうして俺は軽くなった心でこの先の生活に思いを馳せていた。
……そのせいで、奈留さんの言葉を聞き逃してしまった。
「……小学校の頃からずっと仲良くなりたかったんだよ」
過去の自分と向き合う今 九八 @tukisirosiro
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