第200話 ハイダック09
メイド仲間のヤンナが侍女アンジーを殺してやりたいなどとベッド脇で独り言のように喋り続けた。そんなに殺したいなら殺してしまえばいい、そう言って私は蜘蛛の人形に力を込める。人形が赤く輝きを放つとヤンナはそれをじっと見つめる。こうしてここ数日、ヤンナだけではなく私の部屋に来る者全てに蜘蛛の人形の力を見せ続けている。
そしてついにその時が来た。ガストンが枕元に現れ真の世界を取り戻す日が来たのだと私に告げた。翡翠の像を私に預け、ガストンは街の外から真なる世界への変貌を行うと言うとどこかに去っていった。
夜、翡翠の像が光を放ち始める。私は蜘蛛の人形を胸に抱きながらその像を見つめる。
ああ、やっと
やっとお嬢様の願いが叶う
蜘蛛の人形が赤く輝きを放ち8本の足がオルネラの身体に抱きつくように包むと足1本いっぽんがオルネラに食い込んでいく。すべての足がオルネラに刺さるとオルネラは叫び声をあげ座り込む。
しばらくして蜘蛛の人形がオルネラの身体からポトリと落ちるとオルネラは立ち上がる。その目は赤く輝いている。オルネラが再び叫び声をあげると背中から蜘蛛の足が生え始め、顔、腕、足も蜘蛛のように姿を変えていく。
そこにヤンナが現れる。ヤンナは蜘蛛の魔獣を見ると驚く様子もなくオルネラだったものへ近づき跪く。オルネラも分かっていたかのようにヤンナを受け入れ、翡翠像を掲げながらヤンナを串刺しにする。翡翠像の光の中でヤンナは再び動き始め、アンジーを殺しに行く。あとはこの繰り返しだ。誰かが誰かを殺したいと願っており、それを叶えてまわるだけなのだ。
こうしてフィンダード子爵家内部で多くの者が魔獣に姿を変えていきついに街に出ていく。
こうして、ハイダックの街の魔獣大襲撃が始まった。
ハイダックの魔獣大襲撃は他の街と幾分様子が違っている。他の街の多くは外からの魔獣襲撃が起こっているのだがハイダックでは明らかに街の内部から魔獣が発生し、それに呼応するように外から魔獣が街の内部に侵入している。しかしこの時期の記録には信憑性の低いものも含まれており、現在街としての機能を無くしている場所であればそれは尚の事である。
ハイダックの魔獣大襲撃は最初に街のほぼ中央にある貴族街から魔獣が発生したとの証言が多く残され、それが街全体をパニックに包み込み、さらに外からの魔獣襲撃が起こり街が崩壊したとされる。しかし、前述の通り街がすでに崩壊し正式な記録もない状況では真偽の程を確かめるすべもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます