第199話 ハイダック08
お嬢様がガストンに近づいていくとガストンは懐から緑色の石を取り出し像にはめ込む。
像が光を発し一瞬目を瞑ってしまう。そして目を開くと……
「ああ?! お嬢様!」
そこにはガストンの背中から飛び出た蜘蛛の足に刺され倒れているお嬢様の姿があった。オルネラは駆け寄り抱き起こそうとするが
「オルネラ、いいの。これでいいのよ、やっとわかったわ。私は私を生贄にすることでこの世界を真にすることができるの、これほど喜ばしいことはないわ」
そう言って意識を失う。
「さあ、次はお前の番だ。オルネラ、蜘蛛をこちらに。」
ガストンが言う言葉に逆らえない。オルネラは蜘蛛の人形をガストンに差し出す。ガストンは緑の石をはめた像をお嬢様の血溜まりに置き、蜘蛛の人形に向けて何か呟くとその人形を部屋の隅に置く。像自ら動きながらお嬢様の血を吸っている。
「さあオルネラ。お前にも力を与えよう。こちらへ」
ガストンに手招きされ言われるがままに近づいていく。蜘蛛の人形から魔法陣が現れオルネラを包み込む。
ああ、私にも力が。
お嬢様を生贄に私にも力が。
「我らオルドゥースの民はこの時を待っていた!! そう、長い長い時間!! もうすぐだ! もうすぐ……」
言葉が自然と口から発せられていた。
そうか、我々はオルドゥースの民。地の神を祀る民なのだ。この緑色の像、翡翠の像は我らを導くためのもの。全ては真なる世界に導くもの。
ガストンはお嬢様の血を吸った翡翠の像を手に取るとオルネラに言う。
「もうすぐだ。まもなくお前にも迎えが来るだろう。しばらく待っておれ」
そう言うと屋敷の窓から音も立てず飛び出し消えていった。
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「……ネラ、オルネラ、お願いだ、アリシアの最後を見ているのはお前だけなのだ。どうか思い出しておくれ」
フィンダード子爵は懇願する。オルネラはそれを冷たい目で見返す。
この人たちは何もわかっていない。お嬢様の崇高なお考えも私達が求めているものも。そう思うと話す気にもなれなかった。
数日後、王都から若い警察騎士が話を聞きたいとやってきた。あの青年は地の神の像のことまでは理解できていたようだがその後に来た人たちはまったく理解していなかった。
私はもうしばらく待つ必要があるのだろう。ガストンの言う力を手に入れるために。
ああ、夢のような話だ。
お嬢様の血が私の力になるなんて。
お嬢様がなさろうとしたことを私が引き継げるなんて、なんと崇高で素晴らしいことなのだろう。
あと少し、あと少しで私にも力が手に入る。
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