第197話 ハイダック06

 寝ているお嬢様を起こし夢の話をすると、お嬢様は考え込むように例の本を取り出しオルネラに差し出す。そこには先程見た夢の内容通りの挿絵が記載されていた。


「お、お嬢様! これ、これです! 私の夢に出てきた黒いフードの人たちです!」

 慌ててアリシアに伝える。


「そう。オルネラ、あなたももう引き返せないわ。この秘密を知ってしまったのですもの。明日朝一番に本屋に紹介されたお店に向かって頂戴。そこでなんとしても我々に協力してくれる人を連れてくるのです」

 アリシアの決意は硬いようでオルネラもそれに同意した。


「お嬢様、うまくいったとしてもここに連れてくるのは中々難しいかと…… 私が伝言をお伝えしますが?」

「だめよ、オルネラ。オルドゥアスの思想、教義を直接聞きたいわ。そうよ、そうでなければならないの、お願い、オルネラ、なんとかして頂戴」

 そう言われると断れるはずもない。オルネラは仕方なくなんとかしますと答えた。


 翌日、オルネラは本屋に紹介された店に向かう。そこは街のハズレにあり古ぼけた家屋で店とは思えない場所だった。ドアをノックするとくぐもった男の声で中に入るように促される。

 家に入ると夢で見たような黒いフードを被った小柄な男が現れた。


「あ、あの……」

 オルネラが話し始めようとすると男が遮った。


「ああ、わかっておる。我らと共にオルドゥアスの民となりたいのであろう?」

「あ、はい。お嬢様がそう申しております。ぜひお話をお聞きしたいと」

「良かろう。今夜こちらに……」

「い、いえ、それが、お嬢様は外出を止められております。できればお屋敷にお越し頂きたいのですが」

 ギロリと睨まれた気がしてオルネラは足が竦む。


「そうか。ではまずお前からだな」

 男はそう言うと右手をオルネラに差し出す。オルネラが不思議そうにしていると男は蜘蛛の人形を差し出すように言った。

 オルネラがおそるおそる男に人形を渡すと男は人形を握りしめぶつぶつと何かを呟いた。


 そしてオルネラに告げる。

「今夜屋敷に向かう。お前はまずこのフードを被り屋敷の周りを歩き今から渡す物を屋敷の四隅に置いておくのだ。その後、私が向かう部屋の屋根裏にこの像を置き、さらにお前の人形を部屋の隅に置き結界を張る。これで我が屋敷内に入っても誰にも気づかれないであろう、よいか?」

「は、はいっ! それで大丈夫なのですね? お嬢様にお伝えいたします!」

 オルネラが喜び家を飛び出そうとすると男が声をかける。


「慌てるでない、そなた、名前は?」

「オルネラと申します。あの、あなたは?」

「我はアブソース様の忠実なるユッギャだ」

「ユッギャ様?」

「あは、は、は、すまぬ。名前はガストンだ」

 男は笑うことに慣れていないように笑い答えた。

「オルネラよ、そなたはどう考えているのだ? オルドゥアスについて」

「わかりません、私には。お嬢様のように学があるわけでもありませんしどう考えるのかなど私には……」

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