第157話 タラート12
数日後、ついにクロードの率いる軍勢がタラートの町の眼前まで迫ってくる。
「いよいよだな……」
レイスが緊張した面持ちで呟くと、隣の椅子に座っていたクランスが話しかける。
「レイス卿、顔色が優れないようだが、大丈夫か?」
「はい、心配ありません。少し考え事をしておりました……」
「そうか……。まあ、無理もないことだ。私が貴殿の立場であっても同じことを考えていたであろうからな」
「そう言っていただけて助かります。ところで、殿下は本当にこの場に残られなくてもよろしいのですか?」
「ああ、構わない。むしろ、貴殿にこそこの場に留まってもらいたい。貴殿はこの国にとって必要な存在なのだ。貴殿を失うようなことがあってはならない。まあ、本音をいうとせっかくリリアナが家族と再会できたのでな、それは守らねばならんなと思ったのだ」
「ありがとうございます。殿下、それはあなたも同じこと。あなたはこの国を救わねばなりません。このままここで死なれては私は生きてはいけませぬ。そして、あなたには返しきれぬほどの恩がございます。リリアナの命を救い、ここまで連れてきていただいた。もう二度と会えないと思っていた娘に再び会わせていただいた。そしてここは私の領地。私が座してこの領地をむざむざ奪われるわけにはまいりませぬ」
「うむ、わかった。では、また会おう」
二人は笑い合うとそれぞれの陣地に向かう。
――――――
ついに両陣営の距離が縮まり始めた。そして、領都の門の前で両軍が対峙すると、王都側の先頭にいる騎士団長らしき人物が前に出る。
その男は、レイスの予想通りバルロであった。
レイスは、バルロに呼びかける。
「久しいな、バルロよ」
突然聞こえてきた声に驚くも、すぐに平静を取り戻すと返答する。
「これはレイス卿、この領を明け渡す気になりましたか?」
バルロは言葉を選びながら話しているように見える。
レイスはバルロの返事を待たずに続ける。
「ふんっ。バルロよ、貴様は誇り高き王国騎士団の団長の一人であったはず。この状況を見ておかしいとは思わんのか?」
「だまれ逆賊レイス。王国騎士団が王族の命を受け賊を退治するのは至極当然のことよ」
そういうとバルロの目が怪しく光りはじめる。
「ふん、王族が聞いてあきれるわ。貴様らが連れておるのは魔物どもではないか! 王国の誇りをどこにやったのだ!」
「ふははっはっはっはっはー。ほざけ、逆賊が。この魔物どもを操る力がいかに素晴らしいものかまだ分からんのか。王国の誇り? ああ、我々は王族の命を受け行動する。そして今回もまたそうなのだ、レイス卿。今回の総大将はな、王族も王族、なにせ元王のクロード様なのだからな!」
「なっ?! クロード様は亡くなられたと聞いたが?」
「ふんっ! 我々騎士団が動くという事はそういう事なのだ、レイス卿」
二人の会話はしばらく続けられたが、レイスはバルロに王国軍の撤退を要求し、バルロは頑として譲らない。
レイスは最終手段として王国軍に撤退するように勧告するが当然のことではあるが、王国軍はそれに応じることはなかった。
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