第149話 タラート07

「タイークイース。頼みがあるんだが……」

「なんだ?」

「情報ギルドのマスターの権限を使ってでも、この件のことを調べてほしい」

「なぜだ?」

「この事件は、おそらくこの街だけでなく、この国全体に影響を及ぼす。俺たちがどう動くべきか、国に散らばっている情報ギルドのマスターを一度ここに集めようと思う」

「それは……わかった。だが、まだ情報が足りないぞ」

「ああ、わかっている。だから、この事件のことを知っている情報を持っている者を探し出してほしいんだ。例えば、魔物が人に変わる瞬間を見たとか……」

「うーん。それは難しいかもしれないな。過去の王国での連続殺人事件、魔獣化、第3王女誘拐事件は完全に闇に葬られている。情報自体がかなり少なく…… そういえば、ボルソアの町でそんな事件があったような…… ちょっと待ってくれ」


 ノアはそういうと部屋から出ていき、すぐに戻ってきた。


「あった! これじゃないか?」


 ノアが持ってきた本にはこう書かれていた。


『ボルソア魔獣襲撃事件』

 ボルソアの町で住民が突然発狂し、話していた騎士を殺害してしまうという事件が起きた。その後、町中に魔獣が現れ住民ほぼすべてが突如暴れだした魔獣に殺害されたという。その後、駆けつけた冒険者たちにより鎮圧に成功する。しかし、住民たちはほぼ全て死亡が確認された。そして、この事件をきっかけにボルソアの町では魔物が発生するようになった。そのため、現在は立ち入り禁止になっている。事件の犯人であると思われる人物は現在行方不明となっている。


 ノアが本を閉じて顔を上げると、クランスがノアの手から本を奪って読み始めた。

 クランスは本を閉じるとノアを見て


「この事件は知っている。当時第3王女を捜索するために編成された部隊のジグワルド・マティスが最初の犠牲者だと思われる。そして、第3王女エレナを捜索しているときに、この事件が起こった」


 クランスの言葉を聞いたバートは目を瞑りながら話す。

 ノアは二人の会話を聞きながら考えていた。


(これは…… 確かに重要な手がかりになりそうだ)


 ノアはクランスに問いかける。クランスとバートは同時に振り向き


「ボルソアの事件について何か知っている事があれば教えてください」


 と伝えた。クランスは当時行われた緊急軍議の時のことを話始める。


「あの時の報告では確か、ボルソアの人口約900名のほとんどが一匹の魔獣の犠牲となった。調査隊からの報告で、町中で騎士とボロボロの服を着た人物が会話をしている最中、突然男が苦しみはじめその男が魔獣になり、近衛騎士団所属のジグワルド・マティス騎士を殺害し、そこから無差別に住民に襲いかかったということだった。当時も人を魔獣に変える手段が存在し、それを使い、わが王国に仇をなすが者が存在しているという意見だった。そういえば証言の中に「黒いローブ」「見たことのない服」というのもあって、国内のみならず、他国が干渉している可能性も否定できないという話であったな」

「そうか…… やっぱりか…… わかった。ありがとう」


 クランスはそう言うとノアに目を向ける。

 ノアはゆっくりとうなずいた。

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