第121話 帝都ニリネーレ01

 ―――帝都ニリネーレのある屋敷地下


 そこには二人の人物がいた。一人は豪華な椅子に座っている男性であり、もう一人はその前で片膝をついて控えている若い女性である。女性の方は黒髪ロングヘアーをしており、目鼻立ちはとても整っている美人と言っていいほどの容姿をしている。

 しかし、首からは奴隷の首輪をつけており、身に付けているものは布切れ一枚のみといった格好をしていた。一方、男性の方はかなり良い身なりをしているように見える。年齢に合わない白髪混じりの頭髪をしており、顔には深いシワが刻まれている。また、痩せ細っており骨張った印象を受ける。しかしその眼差しは鋭く、どこか威厳のようなものを感じる。女性は男性が座る玉座の肘掛け部分に手を添えながら、上目使いで主人の様子を伺う。

 すると男性は女性の顔を見ながら問いかけた。


「お前の名前はなんだ?」


 女性は一瞬、戸惑った表情を見せたがすぐに答える。


「私はケイティです……」


 すると、それを聞いていた男性が満足げにニヤリと笑みを浮かべて言った。


「ふむ、なかなか良い名前ではないか。気に入ったぞ! これからよろしく頼むぞ! ケイティよ!!」


「はい……ご主人様」


(それにしても… なぜこうも揃わんのだ… 長年研究を続けてきたが未だに成功の兆しがない……)


 様子が気になったのか執事が男性に声をかける。


「ご主人様? どうかされましたか?」


「ん? ああ、なんでもない。気にするな」


「はぁ……」


 ――しかし、もう時間はない――


「それで、あの件はどうなっておるか?」


「はい、順調に進んでおります。まもなく準備が完了いたします」


「うむ。 頼んだぞ」


「はい……」


「ところで、あれはどうなった?」


「例の者ですか…… それが、まだ……」


「そうか。 まあ、焦らずとも大丈夫だ。 そのうちにきっと現れるはずだ」


「はい……」


「ふぅー」


 男はため息をつくと、立ち上がり窓の外を見つめて呟く。


「早く会いたいものだな。 …息子たちよ」


 ――この男こそ、帝国皇帝にして最強最悪の魔導士と呼ばれる《アモン・ザハド》である――


 計画は数年前から動き始めているが帝国にも問題があった。アモンの跡目を廻る争いが起こっているのだ。帝国は聖王歴745~772年のジンスレールの乱においてニニラカン大陸の北東部を初代皇帝ハルム・ザハドが平定、その後、ザハド一族による帝政が続いている。盤石と思われていたザハト一族の支配も時間の流れには逆らえず、建国当時の志も失われつつあった。現皇帝アモンはそのことを非常に憂いていた。数少ない側近と呼べる者たちでさえ信用できない。


 アモンはこの状況を打開するには再び建国当時の志を持つ新たな人材が必要だと考えた。



 たとえそれが帝国を瓦解させることになったとしても。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る