第119話 王都レムサ02

 ―――現在


 他国から見れば王国の混乱は収まりつつある。しかしそれは表面上のものであり、内情は未だ混沌としていた。

 各領では未だに混乱が続き、各地から避難してきた難民たちが主要な都市に押し寄せていた。

 女王に仕える魔物を従える者が各領に現れ、王族に従わない領との争いが激化の一途を辿り、また、魔物が人族の支配領域をじわじわと侵食し始めていた。情勢が不安定なこともあり各地で小競り合いも起き、混沌の中、魔物との戦いはさらに激しくなっていくことが予想された。また王軍と各領の兵との争いも起こり、内情はすでに国としての体をなしていない。



 そして、王国の民の間ではある噂が広がりつつあった。王城から現れた巨大な魔獣は、王城に現れた黒ずくめの男の従えている魔獣であると。


 ギルフォードは酒場でそんな噂を耳にしながら面白くもなく一人で飲んでいた。今日は部下からの報告を聞く気にもならず、ただイライラを募らせていくだけだった。


 (くそ面白くもねえ… 監視している王国が乗っ取られちまったじゃねえか… 第3王女の話なんて誰も覚えちゃいねえ… 本国は何を考えてんだ? 今さら第3王女もくそもねえだろう…)


 するとそこへ、ローブに身を包みフードを被った 一人の人物がやってきた。


 顔は見えない。

 女か?


 ギルフォードはその姿を見て警戒したが、特に敵意を感じなかった。それにその人物が纏う雰囲気には覚えがあった。


(こいつは、確か…… あの時の……)


 その人物は静かに口を開いた。

 ギルフォードは一瞬驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、冷静に言葉を発した。


「お前、何者だ?」


「私は、貴方と同じ者ですよ」


「何?」


「ふふ、少し話をしませんか?」


「なぜ、俺に声をかけた?」


「理由ですか? 理由はいくつかあります。まず一つ目、貴方が今一番知りたいと思っている情報をお伝えしようと思ったの。二つ目、私たちは貴方に危害を加えるつもりが無いことをお知らせするため。三つ目、私の計画に協力して欲しいの。さて、いかがでしょう? 私に協力してくださるのであれば、お望みの情報をお渡しいたしますよ。もちろん、姫君の居場所についても分かっている事をお答えいたします。どうでしょう? お受けいただけますか?」


「なるほど…… まあ、いいだろう。ただし、先にこっちの条件を聞いてもらおうか」


「条件?」


「そうだ、俺の質問に正直に答えることだ。それで、あんたが信用できるかどうか判断する」


「わかりました。それくらいなら問題ありません。なんでも聞いてください」


「じゃあ、早速聞かせてもらおう。なぜ、あの時俺を助けた?」


「それは、あなたが邪魔だったからです。あの時は、私の正体を知る者が増えれば増える程困ったことになる可能性があったのです。だから、あの人たちを始末する必要があったのです」


「それができるってことは… 俺を生かすも殺すも自由ってことか」


――そういうことになります――


 そう答えた女の目が光ったような気がした。



「じゃあ、次の質問だ」


 ギルフォードはその後もいくつかの質問をした。そして、そのどれもが、嘘偽りなく正直に答えられた。


「なぁ、あんた一体何者なんだ? それに、なんでそんなこと知ってんだ? まるで全部見てたみたいに」


 ――全て見ていたから知っているんですよ――


「まさか……」


 ギルフォードは背筋が凍るような感覚を覚えた。

 この得体の知れない感覚は帝国で感じたことがある。


「あんたは一体……」


「そういえばまだ名乗っておりませんでしたね。申し遅れました。私は所属の魔術師シグーラと申します。以後お見知りおきを」


 ――そう言ってフードを取ると、そこには見覚えのある女の顔があった。


「お前は…… やはりあの時の」


「はい、覚えていてくださいましたか。嬉しいですね。ところで、私のお願い聞いていただけますよね?」


 ギルフォードは苦々しい表情を浮かべながら、


「わかった。協力しよう」


 と答えた。

 それしかギルフォード自身が生き残る道はないように思われたのだ。

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