第118話 王都レムサ01

 エレナキイラ・ジヘムーア、元王国第3王女である。3年前王城から行方不明になりその後の消息は掴めず、さらに魔物の大発生とも重なり彼女の安否は絶望的だと思われていた。

 公式な王国紀にも、王国歴227年(聖国歴1002)に魔物襲撃により行方不明と記されている。混乱の時期ではあったものの、王国では彼女が死んだものとして扱われているため公式にはすでに存在しない人間として記録された。これは当時の国王の判断によるものであった。


――――――


 ―――行方不明事件発生の1年前


 王国の混乱に乗じて一人の男が動き出していた。名をギルフォードと言い、帝国影の部隊の一員であり切れ者と呼ばれていた男だった。彼は帝国の命を受けエレナの身柄を確保しようと密かに行動を続けていた。


 そもそもの計画では、魔獣に襲われた第3王女を拉致し帝国領へと連れ去る計画だった。ランの町付近で魔物が姫一行を襲い、そこにいるエレナ姫をそのまま連れ帰るという簡単な計画だったのだが、まずそこで躓いた。突然現れたガキが彼女を救い出してしまった。

 その後、準備に数年を要し、王城での魔物出現からの姫の誘拐を計画したのだがこれも魔物が暴走し、魔物がエレナ王女を連れたまま失踪し、計画の変更を余儀なくされた。二度の失敗を帝国は許さなかった。そのため、仕方なく彼女を王国内で探す羽目にみまわれたのだ。


「まったく、どうしてこうなったんだ。拉致して連れて帰るだけの仕事だったはずなのによお。最初に躓いたら転がる一方だぜ…… 帝国には戻れねえ、王女はいねえ。いったいどうすりゃあいいんだ!」


 やり場のない怒りに震える。ギルフォードは苛立ちながら酒をあおる。

 そこへ部下の一人が報告にやってきた。


「ギルフォード様、例の少年ですが、やはり只者では無かったようです」


「あぁーん? やっぱりかぁ〜 くそぉ〜 一体どんな化け物なんだ? 俺の計画が全部台無しじゃねぇか! あのクソ野郎がぁ〜 あの時殺っちまえばよかったんだよ」


「それが、その、彼は本当に何も知らなかったようなのです」


「あぁ? どういうことだ?」


「はい、実は……」


「な、なんじゃそりゃあああ! ふざけんなよ、あの小僧! そんなことあり得るかよ! あいつは本当に何も知らんかったってのか?」


「はい、我々も最初は信じられませんでした。でも間違いありません。本国が確かにそう言っていました」


「じゃあ、なんでそんなことになったんだよ」


「それは私にもわかりません。ですが、本国の言うことが本当なら、この国には我々の他に連続殺人事件を利用しようと考える者たちや、国自体を乗っ取ろうとする奴らが存在する可能性があります」


「ちっ、厄介なことになりやがったな。おい、この事は誰にも話すな。わかったな? もし誰かに話したら……」


「はい、わかっております。誰にも話しません。約束します」


(くそっ! こうなりゃ、仕方ない。とにかく今は様子見だ。しばらくは王宮を監視するしか無いだろう。だが、万が一、億が一、俺を利用するつもりの奴が現れたら…… その時は容赦はしない!)


 こうして、ギルフォードは王宮の動きを監視し続けながら、エレナの捜索を続けることにした。


 しかし、この時すでに計画は狂っていたのかもしれない。


 王国での魔物大発生は確かに帝国側のしたものだった。そこまでは自分も計画に絡んでいた。しかし王女誘拐の失敗以降、ギルフォードに帝国の重要な情報は渡されていない。


 彼は既に帝国に戻ることはできず、王国でエレナの行方を追うしかなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る