第115話 ルブスト 27

 衝撃の事実だった。まさかこの人がエレナの兄、第2皇子だったなどとは夢にも思わなかった。確かに言われてみると面影はある。髪の色こそ違うが、整った顔立ちにどこか気品のある雰囲気。


 しかし、あまりにも予想外すぎる。それに、そんな大物がこんなところで何をしているのかもわからない。俺の混乱などお構いなしに話は続く。

 クランスは続けてリリアナの話を始める。まさか自分が助けた相手がレイス子爵家に連なるものだとは思ってもいなかったらしい。


「ノア、リリアナ。聞いてくれ。君たちの話を聞いて、私はこれからレイス子爵領に向かおうと思う。どうやら今の王族に反旗を翻すための準備をしている領や情報ギルドとの調整も必要なようだ。これは急ぎ協力体制を作らなければならない。どうだろう? 協力してはくれないだろうか?」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。急だな。俺はまだ状況がよくわかっていない。何より、リリアナの意思が確認できていない」


 リリアナがこちらを見る。


「私からもお願いします。ノア、私、あなたと一緒に行きたい」


「リリアナ…… 本当にいいのか? 君はまだ自分の事を知らない。記憶が戻っていないんだぞ、それでもいいのか?」


「はい。私、ノアと一緒なら大丈夫だって思うんです」


 リリアナは決めたようだ。


「そうか…… わかった。クランス、一緒に行こう。ただし、リリアナの記憶が戻るまでリリアナのことを守ってほしい。そして、領に戻った後、リリアナが記憶を取り戻した時には… これはリリアナ自身が決めることだが、俺達と共に行動するかどうかはリリアナに決めてもらうことを許してほしい。それが俺が共に行くために出した条件だ。どうかな?」


「うむ。問題ない。その条件で構わない。もともとリリアナの家族を探すために動いていたのだしな」


 こうして俺達はクランスと共に行動することを決めたのだった。


 ―――—―――


 俺達がクランスと共に行動をすることを決めてから1週間ほど経った。

 今はリリアナと二人で森の中を散策している。

 クランスは先行してレイス領の様子を見に行ってくれている。

 森を歩きながら俺は考えていた。

 エレナの事について。

 あの時、クランスが話してくれた内容を思い出していた。


 エレナが王城から連れ去られた日、王城には蜘蛛の魔物が現れ、その日からエレナは行方不明になっている。今考えるとすべてはそこから始まっているような気がすると。

 ちょうどそのころ王国内で連続殺人事件が起こっていて、騎士団が各都市に派遣されたのだ。これは各騎士団の隊長レベルにしか話が通っていなかったのだが、派遣の理由の一つがエレナ王女の捜索隊としての任務だったのだ。

 今回、話をすり合わせていく中でいろいろなことが繋がっていった。そして後悔も。


 あの時、エレナをどうにかして王城に連れていくことができていれば…


 あの時、その情報が俺の所にまで下りてきていれば…


 あの時、パリー隊長がエレナに気づいていてくれれば…


 いや… 考えても仕方のない事だ… 何を考えてるんだ…


 そんな俺をリリアナが不安そうに見つめている。


「ああ、ごめん。考え事をしていた…」


「ノアさん。いろいろ考えてしまうのは仕方のない事ですが… まあ私も人のことは言えないですけど、とりあえずレイス領に向かいましょう。そこから、何かが変わるはずですよね?」


「ああ、そうだね。リリアナが無事だったことが分かったのに… つらい事ばかり考えても仕方ないね。レイス領、久しぶりだなあ」


「ノアさんはレイス領に行ったことがあるんですか?」


「ああ… 騎士学校の最終学年の時に、リリアナ、君の護衛でね」


「ええ? そうなんですか?」



 その後、しばらくあの頃の話をしながら静かな時間を過ごした。

 こんなに安心した時間を過ごしたのは何年ぶりだろう。ノアもリリアナもそう感じていた。


 二人はルブストを離れレイス領に向かって歩みを進める。




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 お読みいただきありがとうございます。

 4章終了となります。

(ここはぜひコメントをいただきたいー!)


 今後もお付き合いいただけると幸いです。


 面白そう! と思ったら★や❤、コメントをいただけると頑張れます!!

 引き続きよろしくお願いします!!

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