第114話 ルブスト 26

 リリアナは黙って話を聞いていた。

 自分が何者なのか。記憶を失ってからずっと考えていたことだ。

 そしてそれが一気に氷解していく。


 ノアという青年が語るリリアナは確かに自分のことのようだった。


 私の家族について。家族は無事に過ごしていると言われた。そして私の名前はリリアナ・レイス。レイス子爵家の娘らしい。


 レイス子爵家は3年前の魔物の大発生時、領地を守り切り、現在は新王家と対立し、領独自の防御態勢を築いているとのことだった。私は3年前に死んだものとされ葬儀も済ませてあるとのことだったが、それ以降ノアさんも領には行っていないそうで詳しいことはわからないらしい。


 そしてノアさん自身は、エレナさんと私を探す旅をしていたらしい。


 だけどどうしても分からないことがある。なぜ彼はここまで自分に尽くしてくれるのか。


 そしてなぜこれほどまでに心惹かれるのか。

 自分にとって大切な人だということは分かる。

 しかしそれ以上の感情があるように思えるのだ。


 彼の話を聞き終え、私は自然とその言葉を紡いでいた。


 なぜそこまでするのかと。


 するとノアは少し悲しげな表情を浮かべ、こう言った。あの時、自分は誰も守れなかった、大切な仲間を誰一人守れなかったからだと。そして何よりエレナを守りたかったのだと言った。


 私はその言葉に衝撃を受けた。


 それは彼が一番大切に思っているはずの女性の名前だったから。

 そのエレナさんが今どこにいるのかはわからない。しかし、必ず探し出すと言っていた。


 その時の彼からは強い決意のようなものを感じた。


 彼には悪いと思ったが、つい聞かずにはいられなかった。

 ノアさんの言うエレナさんというのは恋人ですか? そう聞くと彼は一瞬目を見開き驚きの表情を見せた。


 そしてすぐに寂しそうな顔になり、そうだよと答え、続けて俺は彼女のことを忘れたことなんてなかったんだ、といった。


 私はエレナさんにどんな感情を持っていたんだろう?


 ――――――


 しばらくするとクランスが小屋に戻ってきた。

 手には血抜きをした野鳥を持っていて、それを解体しながら話し始めた。


「ノア、でいいか? こいつを捌いてからゆっくり話そう。飯でも食いながらな」


「わかった」


「さて、まずは飯にするか。リリアナ、ノアと話をする間準備をお願いできるか?」


 リリアナは頷くと小屋の小さなキッチンスペースに移動する。

 ノアとクランスは向かい合い座るとノアから話しかけた。


「クランス、まずは礼を言わせてくれ。リリアナを助けてくれてありがとう。本当に感謝している。あなたがいなかったらリリアナはこの世にいない」


「いや、私は当然のことをしただけだ。それよりリリアナの事で聞きたいことがあるんだがいいかね?」


「ああ、わかってる。リリアナのことで知ってることはすべて話すよ、リリアナ、それでいいかな?」


 リリアナはキッチンスペースから頷く。

 俺はクランスにリリアナとの出会いから今までの経緯を話した。

 クランスは俺の話を真剣なまなざしで聞いていた。


 話を終えた後、クランスは考え込むような仕草を見せ、しばらくして口を開いた。


「ノア、これから話すことをよく聞いてくれ。私は君たちに礼を言わなければならん」


「「え?」」


「私は、エレナ… エレナキイラ・ジヘムーア第3王女の兄、クランシイア・ジヘムーアなんだ」


 ?!?!?!?!?!

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