第103話 ルブスト 15
数日後。
冒険者ギルドにナンギ鳥討伐の緊急依頼が出され、各地から冒険者がやってきていた。そして明日、森に討伐隊が派遣される日の早朝。
突然の爆音で目が覚めた。
外を見ると、そこには黒い煙が立ち上っていた。どうやら火事のようだ。慌てて宿を飛び出して現場に向かったが、すでに火の手はかなり広がっており、消火活動は不可能だと思われた。
周りの住民たちが呆然としている間にも火の勢いはさらに増していき、ついには宿屋の建物を焼き尽くしてしまった。
私たちの泊まっていた宿屋は全焼した。幸い、私たちはすぐに部屋を出ていたため無事だったが、それでも部屋の中にあった荷物の大半が焼けてしまった。
後悔したところで何も変わらないことはわかっているが、もう少し早く起きていれば……
そう思わずにはいられなかった。そんな思いが頭に浮かぶ。
「リリアナ。大丈夫か?」
そう声をかけられ、私はハッとした。
顔を上げると、私を心配しているような表情をしたクランスの姿があった。そうだ。今は落ち込んでいる場合ではない。まずはこの後のことをどうにかしなければ……。
そう考えた後、改めて周りを見渡す。周囲には、先ほどまで寝ていた宿屋の残骸があるだけで、すべて燃え尽きてしまっていた。
その光景を見た途端、急に現実感が増してくるのを感じる。
まだ少し頭が混乱していたが、とにかくやるべきことをやろう。まずは、この状況をなんとかしなければならないだろう。
「ええ。燃えてしまったのは仕方ないけど…… 一体何があったの?」
「それがな…… 例の鳥の仕業らしいのだ」
「え? この街に出る鳥は人は襲わないんじゃなかったの?」
「そういう情報であったがな」
「でも、現に襲われてるじゃない。もしかしたら、他にも目撃者がいたのかもしれないわね。なら、このままここにいるわけにもいかないでしょう。ひとまず移動しないと」
私がそういうと、クランスは首を振った。
「まあそうなのだがな…… 少し話したい事がある。ここでは話せぬしどこか別の宿を探さなければならんな」
「そういえば、この辺りの宿はどこもいっぱいだったのよね。もしかすると、みんな同じことを考えたのかもね」
「うむ。その可能性はあるな。だが、いつまでもここにいても仕方あるまい。とりあえず移動するぞ」
何とか新しい宿を見つけ部屋にたどり着く。
そして、落ち着いたところで今後のことについて話し合うことにした。
まずは、この周辺の状況についてだ。どうやら、この街に鳥が現れてからというもの、この街の治安は悪化の一途を辿っており、今ではまともに商売ができる状態ではなくなっているらしい。そのため、ギルドが他の街にも依頼し、クランスがたまたまそれを見かけ、この街にやってきたついでに依頼を受けたのだ。
クランスの話ではこの鳥は、最近は人をさらっていくという話がでており、もしそれが事実であれば放っておくことはできない。今のところ被害者は明確に出ていないという話だった。
が、街に着いたタイミングで事態が急変していた。カルン商会会長ベティルが連れ去られていたのだ。それを知った私たちギルドで依頼を受け、すぐさま動き出し情報収集を始めた。
鳥は森の奥深くにいるらしく、そこに行けば何かわかるかもしれないということだった。そして、この鳥の討伐依頼を受けた冒険者たちが集まり、鳥がいると思われる森へ明日出発することになっていたのだ。
「で、話さなきゃいけない事って?」
「うむ。それなんだがな。明日討伐に出発するというタイミングで宿屋の爆発騒ぎ、都合がよすぎるとは思わんか?」
「相手は鳥だよ? 私たちが明日森に行くことなんて知るはずもないと思うんだけど、たまたまじゃない?」
「ふむ。たしかに偶然かもしれん。しかし、あの爆発は魔法による攻撃だ。魔獣の操る炎とは違っておったように感じた。うまく偽装されてはいたがな」
「なんですって?! じゃあ誰かがあの宿を故意に襲ったってこと?」
「リリアナ、声が大きい。ま、そうなるな」
私は絶句した。
いったい何が目的なの?
そう考えていると
「カルン商会会長ベティル、裏ではずいぶんとあくどい事もやっておったようだしな、この件何か裏で動いておるのかもしれんな。リリアナ、そろそろお前には話しておかねばならん」
と、クランスが呟いた。
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