第101話 ルブスト 13

 数日後、相変わらず喧騒に包まれたギルド内では冒険者たちがとりとめのない会話を続けている。


「おい、また鳥の話をしてんのか?」


 いつものようにギルドに入り依頼ボードの前に行くと隣にいる男たちが話しをしている。


「ああ、この前見たんだ。確かに飛んでいたんだよ。空を……」


「おい、あんまりそういう話はしない方がいいぞ。どこで聞かれてるかわからねぇんだから。変なことに巻き込まれても知らねぇぞ」


「忠告か? まあ気をつけるよ。ところで、その鳥はどこに行ったかわかるかい?」


「さぁな、でも、噂じゃ街外れの森の方に飛んでいったらしいけどな。森の方に行くなら気をつけろよ。最近魔物が増えてきてるらしいからな。ま、お前さんなら大丈夫か」


「ああ、ありがとう。行ってくるよ」


 冒険者同士が会話を切り上げて、ギルドを出ていく。


 その男も朝早くから仕事だ。ギルドで依頼を受け、森に向かう。

 街の出口付近でギルドにいた男に声をかけられた。


「ちょっと待ってくれ!」


 振り返り返事をする。


「なにか用かな?」


「あんたが探してるのはあの鳥じゃないのか? 今、目の前を通ったんだけど……」


 男は、空のある一点を指差す


「!?」


 男が示した先には確かに1羽の鳥が飛んでいた。しかし、その姿は以前見かけたものとは大きく違っていた。

 全身に羽毛はなく、クチバシもどこか歪な形になっている。


「……どう見ても違うな」


「だ、だよなー 悪い! 気にしなくていいから!」


「ああ、それじゃ」


 男はその場を離れていった。なんだったんだろう?


 そんなことがありながらもそのまま目的地である森へと向かうことにした。



 森の中に入って3時間ほど進むと、目当てのものが見つかった。


「あった……」


 それは、地面に落ちていたボロ布だった


「これが、例の鳥の落としたものか……」


 手に取って広げてみると、所々穴があいていて焼けたような跡や血の跡もついているようだ。


「これは、なんだ…… やっぱりおかしい。噂通りだとしたら、この鳥は人間を襲わないはず。なのに、なぜ襲われた?」


 考えていても仕方ない。とりあえず、報告に戻るか。来た道を引き返し、街へと向かった。



 ――――――



 街に戻ると、すでに日が暮れ始めていた。酒場に向かう前に冒険者ギルドに立ち寄り報告を行う。

 受付嬢は、俺の顔を見ると笑顔で対応してくれた。


「このボロ布なんだが」


 そういってボロ布を見せる。すると受付嬢の顔色が変わり


「少々お待ちください」


 といって下がっていく。


 よくわからないまま数分待たされる。しばらくすると受付嬢が戻ってきて机の上に金貨を1枚差し出してきた。そして


「この度はありがとうございました。この布は数日前行方不明になったカルン商会の会長であるベティル様のものと確認されました」

 

「ええ? あのカルン商会の?!」


「はい。ただ、これ以上の詮索はお控えになった方がよろしいかと」


 と言われた。確かにこれ以上関わってもろくなことになりそうもない。ボロ布が金貨1枚に化けたんだ、十分な報酬だ。

 そう思い礼を言ってギルドを出る。


 ……


「ふー…… これで何件目かしら……」


 受付のジーニーはため息をつく。


 ここ最近、冒険者ギルドには行方不明者、カルン商会会長ベティルの捜索依頼が掲示されているのだ。この街で有名な大商人であった彼の突然の失踪は、瞬く間に広まった。彼は、かなりの資産を持っているため、当初その金を狙った者たちによる誘拐ではないかと噂されていた。だが近ごろは最近巷を賑わせている鳥が彼を誘拐したという話も出てきていた。


 そんな時、街なかで鳥型の魔物に襲われている男性がいるという通報があった。駆けつけたところ、そこには血を流して倒れている男性の姿が……。そしてそこにはこれまで鳥が持って行った大工道具や酒盛りの盃などが落ちており、さらにそこに先ほど持ち込まれたようなボロ布が落ちていて、ますます誘拐よりも鳥に連れ去られたという噂に信ぴょう性が高まっていた。そんな中、今度はその鳥らしきものがカルン商会会長ベティルを掴んで空を飛んでいるのを見たという話まで出てきたのだ。


 もはや、収拾がつかない状況になりつつある。ギルドとしても調査をしないわけにはいかない状況であった。そこにカルン商会からギルド宛に会長ベティル捜索の依頼が来たのだ。


 ジーニー自身はこれ以上関わりたくないと思っていたのだが、そうもいかない事情があるのだ。


 それは、彼女の兄であるギルドマスターからの頼みだった。

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