第100話 ルブスト 12
ルブストの街にある噂が広まっている。
復興支援で他の街から入っている木工や金物職人たちの酒や肴、最近では仕事道具などが頻繁に盗まれるというのだ。はじめは盗人が現れ金品を盗んでいるのだという話だったが、最近はその道具を身につけた鳥が空を飛んでいる、鳴き声を聞いたなどという噂も広がり始めている。
酒場の店内はそこそこ賑わっており、客層は冒険者風の者たちが多い印象だ。
カウンターに座って酒を煽っている男が店主に声をかける。
「あの噂はほんとなのかい? 例の鳥が盗んでいくってやつよ!」
その声を聞いてテーブルからも声が上がる。
「ああ、間違いねえよ。俺の連れはその鳥の鳴き声を聞いたつってたぜ」
「馬鹿言うな! そんな話、酔っ払い以外誰が信じるってんだ!」
「「なんだとこのやろお!」」 「「やめろやめろ!」」
など喧騒に包まれ店は大騒ぎだ。そんな騒ぎが毎夜街の酒場では繰り広げられている。
そんな中、今日も一人の男がある建物へと入っていく。
扉を開けるとそこには厳つい顔をした男たちが数名静かに座っている。彼らは一様に黒いローブを身に纏いフードを被っているため顔はよく見えない。
彼らは、部屋の中心に置かれた円卓に集まっており円卓の上には大量の書類が置かれている。
最後にやって来た男が中央奥の椅子に座ると周りを見回して口を開く。その男は、カルン商会の会長であるベティルだ。彼は、先ほどまで、自分の屋敷にいて今晩の会合のために急いで戻ってきたところだった。
ベティルは、集まったメンバーを確認する。まず、部屋の隅っこの方から、小さな声で挨拶が始まった。ベティルはそれを無視して中央の一番大きな椅子に座りながら、周りをぐるりと見回す。
「今回の件、どう考える?」
ベティルは、隣の男に話しかける。男はフードを目深に被っていて表情はうかがい知れない。しかし、声色からは緊張が伝わってくる。男は、少し躊躇した後、口を開いた。
「おそらく、盗人の仕業かと思われます」
「ほう、盗人か。なぜ盗人がこのようなことをする?」
ベティルの言葉に男は首を横に振る。
「いえ、普通ならあり得ません。ですが、ここ最近、街道沿いに盗賊が多く他領からの物資にも影響が出そうな状況です」
「ふんっ! 全く盗賊どもにも困ったものだ。ビンイ盗賊団には金を掴ませているのだろう? なぜ奴らは動かんのだ!」
「それが…… ビンイ盗賊団は我々に協力し、これまで通り動いてはいるのですが…… どうやら別の盗賊団も街道に現れ、ビンイ盗賊団だけでは対応しきれないと……」
「何のために奴らに金を掴ませていると思っているのだ!! 使えぬやつらめ!!」
ベティルは怒りのあまり立ち上がり怒鳴るが、それを遮るように、正面にいた男が声を上げた。
「まあまあ、落ち着いてください。今は盗人の対策を考えましょう。それにしても、こんな噂が流れ始めたのはいつ頃からでしょうか?」
「ふんっ くだらん噂だ。鳥が盗んで身につけ空を飛ぶなど…… ばかばかしい!! それよりもだ! 例の魔道具はいつ頃とどきそうなのだ? そろそろほとぼりも冷めてきた。もう一度例の計画を実行しなければな。教会からもせっつかれておるのだ」
ベティルは怒りに任せて大声で叫ぶ。
ベティルの隣に座っている男が落ち着かせるように話しかける。
「ええ、わかっております。それについてはもう少し時間をいただきたい。必ずや、成功させてみせましょう」
「おお! 頼もしいではないか! それでこそ我らが同志だ! 期待しているぞ!」
「「お任せあれ」」
「では。本日はこれにて……」
もうすぐ我々の悲願が達成される!
その時は、この街は我々カルン商会の物になる!
ベティルは、高笑いしながら自宅へと戻っていった。
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