第99話 ルブスト 11
メイテが先ほどのやり取りが気になったのか話かけてくる。
「ノアさん、あれで何かわかったのですか?」
「ああ、今のところはこれで十分だ。あとはセレオンたちが調べてくれている教会組織の情報とすり合わせが必要だな」
「そうですか…… あまりよくわかりませんでしたが、ノアさんのことだからきっとすごいことなんでしょうね」
と尊敬の眼差しを送ってきたのだった。俺達はセレオンと合流し、情報の共有を行った。ベティルはカルン商会がルブスト復興支援のために送ってきた人物であり、街の教会のトップと懇意にしている。現在、カルン商会は街の経済の要となっていて、ベティル自身も店の経営者としてかなりやり手だと思われる。また、カルン商会は魔獣の襲撃の際、いち早くこの街にやってきて商会を立ち上げ、復興のための資金を準備し住民に貸し付けた。当初から炊き出しなどにも行い、それは現在も継続しており、表向きは支援を売りにしている。だが、実際はカルン商会を通さなければ復興支援物資の売り買いもできない状況だと思われると説明した。さらに復興当初貸付けた金を返せない者たちの土地を巻き上げ、人は労働力としている事もわかった。
セレオンの集めた話によると、教会は、魔獣襲撃の際に多くの人命を失い大きな打撃を受けたため機能を停止し、現在は再建に向けて動き出している、としているらしい。
カルン商会ベティルの行動は、再建に向けた動きの一環だと見せかけてルブストの街を教会と共に牛耳るつもりだったのだろうというのがセレオンの見解だった。
それに比例するようにカルン商会は復興を口実に商会を大きくし、大きくなるにつれ商会の利益は大きく伸びていく。商会は、返済が焦げ付いた商会を併合し、複数の商会を傘下にし、傘下の商会もすでにかなりの規模だ。
俺はセレオンに引き続き教会の動向を探ってもらうように頼んだ。カルン商会と教会がつながっていることは確実だ。
もう一つ。調査報告から、教会についても詳しいことがわかってきた。
前教会長の推薦により教会長に就任したビーホルトという人物が浮かび上がった。もともとルブストの街の教会で神父を務めていた人物で、先代の頃から頭角を現し、前教会長の引退に伴いその後任として就任。ビーホルトは、手腕を発揮し、瞬く間に教会の発言権を拡大していく。また、ビーホルトは孤児院にも支援を行っており、子供たちの面倒もよく見ている。ビーホルト自身は、孤児たちを引き取り、自分の手足にしようと考えていたようで、引き取った子供は一人前になるまで面倒を見るとしていたようだ。そして孤児院は支援だけではなく、学校の設立なども進めている。
ただ、孤児院の子どもが一定期間でいなくなっているという噂も流れているが、これに教会側は他の地域の教会へ分散させているという説明を行っている。セレオンたちは人身売買を疑っているそうだ。
そのためか孤児院の運営はうまくいっているようだが、表向き教会組織の立て直しはまだ難航しているとしている。
そしてメイテの事件の際もこのビーホルトが一件を取り仕切っていたという。どうやらセレオンの言う通り、教会組織の再建を目指しているのではなく、完全にビーホルト一人が実権を掌握するつもりで動いているようだ。
ビーホルトが、ルブストの街の実質的な支配者だということも判明した。
ルブストの街は、カルン商会と教会による支配体制が敷かれており、実質的に二つの勢力がこの街の経済をほぼ掌握している状況にある。
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