第98話 ルブスト 10

 セレオンはこの街の出身で魔獣襲撃の際、ある商会の護衛として雇われていた。その際、この街が魔獣の襲撃を受け、壊滅的な被害を受けたという話を聞いて、急遽護衛の仕事をやめてこの街に戻ったんだと言った。また、街には少なからず教会組織に疑問を持っている者は数多く存在し、組織だった動きもできているという。

 魔獣の襲撃による被害が落ち着いてきた今、街は復興に力を入れている。街の復興に多額の金品が動き、他領から来た商人や冒険者も多くの恩恵を受けている。また、魔獣討伐で功績を上げたものには報奨金をだすことで街全体の士気を高めているという。他領から来た者の中には復興支援とは名ばかりでわざと資材の値段を釣り上げたり、親を亡くした子供たちを奴隷のように扱いながら利益を出しているものたちもいるそうで、それを聞いたメイテは怒りに震えていた。

 その者たちの名は、カルン商会の会長のベティル=カルンとその幹部であるアデルバ=オーガスト。

 俺たちはまず、この二人を調べることにした。メイテとともに、カルン商会を訪れた。

 店に入ると、店員たちが一斉に挨拶をする。俺はそんな彼らに軽く会釈をして奥の部屋に向かう。部屋の扉を開けるとそこには恰幅の良い中年の男がいた。

 部屋に入ると同時に、彼は立ち上がり、 笑顔で近づいてくる。握手を求めてきた。俺が手を差し出すと、強引に手を握り、 上機嫌に話しかけてくる。


「本日はどういったご用向きで?」


「実は最近この街に来たばかりなのですが、この街のことを色々知りたいと思いまして。ここの経営を任されていらっしゃると聞きましたのでお話を聞きたいと」


「そうですか。それはありがとうございます。私の名前は、ベティルといいます。 以後よろしくお願いします。して、どのようなことが知りたいというのでしょうか?」


「この街の復興事業のことについてです」


「ほう…… そうですねえ…… この街は最近、魔獣に襲われておりません。しかし、この街の住民たちはあの時の恐怖を忘れることができません。まだまだ復興元場ですし、この街では定期的に炊き出しを行い、住民に食事を提供するようにしております。他にも、住居を失った人たちのために仮設住宅の提供もしていおります。さらに、瓦礫を撤去した後の土地を整備し、新たな商売を始めるための支援をさせて頂いております」


 なるほど。なかなかしっかりした支援をしているようだな。


「しかし、物資が足りず、満足な生活ができていない方もいらっしゃるようですが……」


「えぇ、その通りでございます。この街の食料自給率は、他国に比べて圧倒的に低いのです。しかも、他領の者が持ち込んだ作物のせいで価格が上昇してしまい、十分な量を安定的に供給することもできていない状況でございます。我々も致し方なく価格を上乗せせざるを得ない状況でして」


「なるほど。お話ありがとうございます。私もこの街で何か取引ができないかと考えていまして。大変参考になりました、ありがとうございます」


「ちなみにどのような物をお取扱いになる予定でございましょう? もしよろしければ当商会で取り扱わさせていただいてもよろしいのですが」


「ああ、その際は是非お願いしたいと思います。また商材が入りましたら伺わせてください」


「承知しました、恐れ入りますがお名前をお伺いしても?」


「ああ、失礼しました。私はと申します。この街の復興事業に絡みたいならまずはカルン商会へ挨拶をするように言われておりましたので……」


「とんでもございません。私共などは教会からの依頼をお手伝いさせていただいているにすぎません。神の思し召しですな」


 といって笑った。


「では、また近いうちに。本日はありがとうございました」


 といって店をでる。

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