第84話 セミル 01

 ロスベラの町を出発し、魔物に蹂躙された元王都エルファを迂回して北上する。ルブストに向かう途中に、生まれ故郷セミル村がある。セミル村も魔獣大発生で被害を受けたとうわさで聞いている。


 3年前の事件、いや騎士学校時代から考えると7年か。そんなことを考えながら進む。村を出て騎士学校、派遣警察騎士団、それからいろいろあったけど結局家には一度も帰らなかった。家族がどうなっているのかもわからない。エレナ、リリアナ、パリー、アベル… 彼らのことを思うと自分だけが家族の下に帰るなど許されないと思っていた。この3年でやっと確認する踏ん切りがついた。



 ランの町…、ここでエレナに出会った。懐かしさに自然と笑みが浮かぶ。あの日のエレナは本当に輝いていた。今はあの日起こった事件も現在に繋がっていると考えている。兵士の魔獣化。そのせいで、俺の人生は大きく変わってしまった。そういえば、初めて人を殺したのもこの辺りだったな。あの時は、必死過ぎて何も感じなかったし、そもそも人なのかもわからないのだけれど。

 そして、なんと言ってもアフムの存在だ。あの時確かにアフムと会話し、おそらく契約をした。そして3年前もアフムの力を感じ使った。2回とも自分の意志ではなくアフムの力の暴走だった。

 しかしこの3年で、アフムの力を感じ、意識して力を引き出せるようになった。もうこの力を暴走させない限り、気を失ったりすることもない。相変わらずアフムとの会話はできないままではあるが。


 エレナを襲った魔獣化は偶発的なものではない、仕組まれたものだ。あの時、エレナ達は視察のためにランの町に訪れていて、それまで同行していた兵士が突然魔獣化した。明らかにエレナを狙った犯行だったのだ。そしてその後の連続殺人事件、これもおかしい。ハイダック領の令嬢殺人事件もこの連続殺人事件に関連していると思っている。あの時の翡翠の像、地の神の像について調べようとしてできなかった。

 さらにはコルダラ城塞都市からレムサ…。モンテ便商会のマーチスの行方不明と侍女カミラ。この2つには繋がりがあり、その後、カミラはバルバロッサ・ドゥプレ子爵家からクロード王へつながり王妃となった。これらのことから俺は一連の事件は、王妃が起こしたことではないかと考えている。

 しかし、証拠がない。それに王妃が犯人だとしたら何故こんなにも回りくどい方法を取る? もっと他にやり方があったはずだ。


 俺は、自分の考えが正しいと思う。ならば、たとえ国王であろうと戦いを挑むつもりだ。俺は改めて覚悟を決める。


 そんなことを考えながら街道を進むとついに見えてきた。


 セミルの村だ。

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