第85話 セミル 02

 村は以前とは違い、木で囲いが作られていた。入口には簡易だが門がある。その門をくぐり、俺は懐かしい気持ちになりつつ村に足を踏み入れた。村の広場では人々が忙しく走り回っている。俺は近くにいた村人に声をかけた。

 ディグさんだったかな?  ディグは俺を見ると驚いていたが、すぐに笑顔になった。


「おまえ?! ノアか?! 生きていたのか!!」


「ああ、久しぶり」


「心配してたんだぞ!」


「悪いね。 ちょっと色々あってさ」


「まぁいい。 無事ならそれでいいんだ。 それより、お前のところも大変だったなあ…」


「うん?」


「3年前の事件だよ。 俺の嫁さんの両親も亡くなったよ。 うちも親戚とか少ないからみんな悲しんでるぜ。 あと、村長……。 まったくひどい話だ」


「…ディグさん、ごめん。 おれはこの村の状況を知らないんだ…」


「そ、そうか、そうだな。 すまん。 いや、悪かった。 つい興奮してしまったな。 村長の家に行けばわかるだろう。 じゃ、そのあとにな。いいか、絶対にうちによってくれ」


「ああ、ありがとう。 必ず寄らせてもらうよ」


 そう言って別れると、俺はまず村長の家、実家に戻ることにした。

 狭い村だが懐かしさを感じる。家は変わらずそのままだったが、中に入ると埃だらけになっていた。


 予感はあった。


 無事ではないだろうと。


 父さんも母さんも村を、住民を捨てて逃げだすような人たちじゃない。最後まで残って戦ったに違いない。妹のサラは? サラがどうなったのかが気になる。ディグさんに確認しようと家の外に出る。

 そして目に留まったのは村はずれにある戦いの痕跡だ。3年も経っているのに、そこには焼け焦げた跡と折れ曲がった剣があり、地面に刺さっていた。この剣は…父さんの剣だ。これはこの村を守った証だ。俺は、心の中で感謝する。


(父さん、母さん。ただいま、戻ってきたよ。村を守ったんだね。すごいや、父さん、母さん。)


 俺が感傷に浸りながらうつむき、しばらくその場で過ごしていると、後ろから声をかけられた。

 それは俺より少し年上の少年だった。

 誰だろうか?

  見覚えはある気がするが……

 記憶を探るが思い出せない。


 「覚えていませんか? 俺はラニーです。あなたの弟ですよ。 兄さん」


「えっ?」


 驚いた。


「なんで……?」


「驚かせてすみません、ディグさんにあなたが生きていたと聞いてすぐに報告をと思いましてやってきました」


「あ、ああ… 報告?」


「はい、私はサラと婚約しています」


 衝撃が襲う。


「え? は? サラ? え? サラは生きているのか?! 生きているのか!」


「はい、もちろん無事に過ごしています。 その件も含め、うちに来ていただけませんか? サラももうすぐ戻ると思いますので」


 と提案してくれた。

 こんなに嬉しいことはない。生きていた、生きていてくれた。

 俺の目からは涙が流れ落ちる。


 そして俺は、ラニーの家に向かった。

 ラニーは、この3年間のことをいろいろ教えてくれる。

 魔獣大発生で多くの死傷者が出たこと。

 魔獣被害はおさまりつつあるが、まだまだ油断はできないことなど。

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