第69話 コルダラ城塞都市 03

 部屋の中央にいるバルバロッサの体から黒いモヤのようなものが沸き立つ。それは、次第に大きくなり部屋全体を包み込んでいく。


 そして、バルバロッサの姿も徐々に変わっていく。


 頭には二本の角が生え、体は獣のような毛で覆われ、口元から牙が覗き、鋭い爪が伸びる。その姿はまさしく魔物と呼ぶに相応しい姿へと変貌を遂げた。

 そして、その眼光から放たれる殺気は人間に向けられるものとは思えないほどのものだった。


 バルバロッサは、ゆっくりと扉の方へ歩き始める。


 しかし、その歩みは決して速いものではなく、まるで酔っ払いが歩いているような感じだ。


 その時、外から悲鳴が上がる。魔物の群れが城内にも現れたのだ!

 バルバロッサは、ニヤリと笑うとその手を勢いよく振り下ろす。

 巨大な扉は轟音とともに吹き飛ぶ。


 バルバロッサは、叫び声を上げる。その声には、先ほどまでの弱々しさは微塵もなかった。


グルオォォォォォォォォ!!


 叫び声に城の騎士や傭兵が驚いたような表情で一斉にバルバロッサだった魔物のほうを向き、覚悟を決めたように剣を握りしめ今にも向かってこようとする。魔物に変わったバルバロッサはそんな事は意に介さず、悠然と歩き出す。

 次の瞬間、騎士たちは信じられない光景を目にする。バルバロッサは、目の前にいた騎士たちの体を素手で引き裂いたのだ。そして、そのままその血肉を貪るように喰らいつくしていく。それは、あまりにも異様な光景だった。

 魔物に変わったバルバロッサは、騎士たちを次々と襲っていく。そして、その圧倒的な力で次々に屠り、その腕で首を引きちぎる。その度に、その口からは真っ赤な鮮血が飛び散る。赤い色はやがて、辺り一面を染め上げていく。バルバロッサだった魔物の口元は赤く染まり、その目からは狂気に満ちた笑い声のような鳴き声をあげる。


 その姿はもはや人間のものではなかった。そこにいるのは紛れもなく魔物であった。まさに地獄絵図のようでもあった。騎士も傭兵もその数をどんどん減らしていく。かろうじて息のあるもの、無残に引き裂かれ姿をとどめない者。すでにこの場にはこの魔物を倒そうとするものは存在せず、皆自分が次の餌食になるのだとあきらめている様子がうかがえる。


 その時、バルバロッサが先程までこの城塞を守っていた兵士たちの死体の山に何かを投げ込む。


 それは、翡翠の色をした小さな像だった。


 生き残っている者は何が起こったのかわからずただ固まってその像の投げ込まれた死体の山を眺める。



 するとその死体の山は突如蠢き始め、中から死体達が起き上がり、仲間同士殺し合いを始める。

 息絶えていたいたはずの兵士たちが次々と立ち上がり、互いに武器を手にして戦いを始める。その姿をみた生き残った騎士たちはあっけにとられるが、次の瞬間急激な頭痛に襲われる。そして、次々とその場に崩れ落ちる。

 脳に直接痛みが走り、その激痛に耐えかね意識を失ってしまう。


 バルバロッサは、その様子を見届けると、満足げにうなずく。

 そして、再び大きな声で笑いだす。

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