第68話 コルダラ城塞都市 02

 翌日、城塞内にバルバロッサの声が響く。


「どういう事だ! 説明せよ!!」


「ハッ、ストビーから撤退してきた傭兵団によると、街に魔物の大群が突如現れ、襲われたとのことです」


「魔物の襲撃だと!? 馬鹿を言うな! そんな事があるわけなかろう!!」


 バルバロッサは、机を強く叩く。


(私の知らないところで魔物が現れるとは! クロード王はいよいよ私を切り捨てにかかったか! 負けぬ!! まだだ。王都に攻め込みカーミラをこちらに取り戻すことさえできれば)


「何としても魔物を撃退し、王都方面に向かうのだ!! なぜ動かん!!」


 バルバロッサは再び叫ぶ。その声には焦りが感じられた。


 バルバロッサは兵士に向かって怒鳴る。まるで親の敵を見るような目で。その目は怒りと憎しみで溢れている。そして、拳を握りしめ、わなわなと震えだす。再び怒号をあげる。しかしその声はどこか弱々しく、今にも泣き出しそうな子供のようだ。


 しばらくすると、バルバロッサはふっと力が抜けたように椅子に座りこむ。まるで別人のような優しい口調で語り掛ける。まるで壊れた人形を抱きしめるように。


 優しく愛おしそうに、そして狂ったように笑い出した。今までの自分をあざ笑うかのような、狂気に満ちた笑みだった。バルバロッサはひとしきり笑うと、兵士に指示を出し、兵士は部屋を後にする。


 その背中を見つめながらバルバロッサはつぶやく。

 その瞳からは一筋の涙が流れ落ちる。それは頬を伝い、床へと流れ落ちていく。


 「あの男の言うとおりにしなければならぬのはしゃくではあるが」




 しばらくして、バルバロッサは顔を上げると再び不敵に微笑む。その姿は先ほどまでの弱々しい姿はなく、すさまじい威圧感を放っている。まるで、自分の存在そのものがこの世界そのものを支配できるというかのように……。


 バルバロッサは立ち上がると、窓から外を見下ろす。


 そして、不気味な笑顔を浮かべると、何かに取り憑かれたように独り言を言い始めた。


「フッハハハ! そうだ! 初めからこうすればよかったのだ。カーミラはこうなることがわかっておったのだ!! そうだ、私は王になる!」


 そう言うと、高々と笑い出す。


 その言葉は、まるで呪縛のように響き渡る。


 まるで呪いの言葉のように。

  そして、まるで悪魔との契約でもしたかのように。



――――――



 これまで城塞に守られ、魔物の出現を抑えてきたコルダラは、この日初めて内部から魔物が出現し街を破壊される。

 傭兵団はすぐさま主要な拠点から魔物討伐のために派遣され城塞内で激しい戦闘が繰り広げる。

 混乱の中、人々は逃げ惑うも次々と襲われ命を落としていく。

 魔物の勢いは止まらず、瞬く間に街全体に恐怖と混乱が広がっていく。



 バルバロッサはその様子を自室の窓から眺めていた。ニヤリと口角を上げほくそ笑む。その様子は、まさに悪魔のそれであった。この動きは想定していた事態ではあったが、まさかこれほど早く起こるとは思っていなかった。しかし、バルバロッサにとってはむしろ好都合である。なぜなら、バルバロッサはこの時を待っていたからだ。


 クロード王の首を獲り、この国を手中に収め、カーミラを再び自分の下へと迎える時を思い浮かべる。


 バルバロッサは、窓際から離れると部屋の中央に立つ。


 そして、大きく息を吸い込むと何か独り言をつぶやきながら両手を広げる。


 するとバルバロッサの体から黒いモヤのようなものが浮かび始める。

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