第67話 コルダラ城塞都市 01
時は少し遡る。
国王軍が討伐に動きバルバロッサ領内に入った頃。
コルダラ城塞都市はバルバロッサ伯爵の居城がある街である。
現在城塞内は魔物の進行は傭兵団によって抑えられ、混乱した王国内では新しく王都になったレムサに次ぐ規模の都市である。他の地域から人々の流入は続いている物のまだまだ人の住む地域もあり、人々はコルダラ城塞都市内であればこれまでと同じような暮らしができていた。
そんな中、居城の一室で二人の男が話をしていた。一人は、バルバロッサ伯爵。もう一人は、黒いフードを被った男だった。彼らは、つい先ほど起こった出来事について話し合っていた。部屋の中は薄暗く、蝋燭の灯だけが頼りなく辺りを照らしている。二人は、ソファーに向かい合って座っている。バルバロッサは、苛立ちを抑えられない様子で爪を噛みながら貧乏揺すりをして、時折何かブツブツと言っている。
その隣にいる男は額に手を当てうつむいている。
そんな二人の間に重苦しい空気が流れる。
「どうしてこうなったのだ!?」
バルバロッサがもう一人の男に問いかける。
「バルバロッサ様、我々はご忠告申し上げたはずです」
男はそういうとフードの中から鋭い目でバルバロッサを睨みつける。
「それはわかっておる。だが、奴らは私の領地に攻め込んできたのだぞ。それを黙って見過ごすわけにもいくまい?」
「確かにそうかもしれません。しかし、だからといって、いきなり攻め込むというのはあまりにも短絡的ではありませんか? それにもしこの度の行動が失敗すれば……」
「失敗だと! 貴様に何がわかる! この愚か者め!」
バルバロッサは、テーブルを叩くと立ち上がり、目の前の男に詰め寄る。
「いいですか、私はあなたの部下でもなければ友人でもないのです。あなたの都合など知ったことではない」
「きっ、貴様!」
バルバロッサは、剣を抜き男の喉元に突き付ける。しかし、男は全く動じず無表情のままだ。
しばらくして、バルバロッサは落ち着きを取り戻す。そして再び、ソファーに腰かける。今度はまるで自分の感情を抑えるように、落ち着いた口調で言う。
「カーミラは? カーミラは何と言っておるのだ? もはやクロード王との関係の修復を望めないのであればカーミラだけでも戻ってきてはくれないだろうか?」
バルバロッサは、最後の望みを託すかのように質問をする。しかし、その希望はあっさりと打ち砕かれる。
「残念ながら無理でしょうね。すでにあなたは見限られていることでしょう」
「なっ! 何ということを」
バルバロッサは絶句してしまう。
「もう、諦めなさい。あの女はクロード王に完全に心を奪われてしまったようですよ」(まああなたに本当のことを伝える義理もないですしね…)
「そんなバカなことが……」
「あるんですよ。これが現実なんです」(さあ、早く壊れてしまいなさい…)
「くそぉっ!」
バルバロッサは頭を抱えてうずくまる。
「もう、打つ手はないのか」
「えぇ、ありません。あなたも、我々組織の恐ろしさは身に染みて分かっていると思いますが」(まあこんなものですか。そろそろそよさそうですね)
「あぁ、そうだな……」
バルバロッサは力なく答える。
フードの男は立ち上がると窓際に行き窓を開ける。差し込んだ月明かりが部屋を照らす。
その光の中で男は呟いた。
静かに
しかしはっきりと聞こえる声で
冷たい視線をバルバロッサに向けながら
「さようなら、バルバロッサ伯爵。 あなたが生き残るためにはもうこれしかないのですよ」(せいぜい頑張ることです。組織の役に、いえ、カーミラの役に立つことがあなたの望みなのでしょうから)
そして、ローブの男は窓から闇夜に消えていった。
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