第66話 王都レムサ 05

「国王陛下! 緊急の報告があります」


 一人の兵士が駆け込んでくる。


「なんだ! 今はそれどころではない!」


 クロード王は怒りを含んだ声で怒鳴りつける。


「申し訳ありません。しかし、急ぎお耳に入れておきたいことが……」


「早く申せ!」


「ハッ、実は……」


「なに!?」

 

 兵士の報告を聞いたクロード王は、驚きのあまり大きな声を出してしまう。

 そして、慌てて口を手で塞ぎ周りを見渡す。


(どういう事だ! なぜ、こんな事になった)


 クロード王は混乱していた。


「まさか、本当にそんな事が……」


「はい、間違いないかと」


「クソッ! あの馬鹿どもが! 私の計画を台無しにしおって! せっかく、ここまで上手くいっていたものを!!」


 クロード王は大きく舌打ちすると頭を掻きむしる。


「陛下! いかがいたしますか?」


 側近の一人が問いかけてくる。クロード王は再び大きくため息をつくと、決断する。その瞳には覚悟を決めたような強い意志が感じられる。


 そして、言い放つ。まるで自分に言い聞かせるように。


「全軍をストビーの町まで後退させよ。 ルダークの町が魔物に襲撃された。このままでは王都へ帰る道がふさがれてしまう!!」


 その言葉に側近たちは動揺するが、すぐにクロード王の命令を実行するため動き出す。



 一人になったクロード王は、悔しそうに顔を歪めると呟く。


「あと少しだったのだ…… もう少しで、すべてを手にする事ができた。それを、あの忌々しい連中が邪魔をした。くそ! 全てはあいつらのせいだ! 絶対に許さん。バルバロッサよ、覚えておれ。 お前だけは、この手で始末してくれる!」


 クロード王は憎しみを込めた目で虚空を睨む。その目には何も映っていないようであった。


 ルダークの町が魔物に襲われてから三日が経った。

 ルダークでは大量の魔物が出現し、国王軍の反転も間に合わず破壊され尽くした。国王軍は撤退を余儀なくされ、今はストビーの町の外で野営している。

 西からのバルバロッサ軍、東のルダークには大量の魔物の群れに挟まれた形になっている。



 ――――――――


 

バルバロッサ討伐隊の野営地近くの森の中


「ふぅ~」


 男は疲れ切った体を休めようと横になる。隣を見ると、女も同じ様に横に寝転んでいた。


「大丈夫か? 少し休むといい」


 男の言葉に、小さく首を振ると


「ううん…… 私なら平気。 それより、これからどうするか考えないと」


「そうだな。まずは、この町の復興の手助けをしてやりたいが……」


 男がそう言うと、女は首を振って答える。


「ダメ…… この前みたいな事があるかもしれない。 それを考えると、ここにいるのは危険すぎるわ。 この辺りは魔物がたくさん出るのよ」


「そうか。ならば、仕方ないな。 とりあえずは、他の町にでも向かうとするかな」



 二人は、しばらく無言で天を仰いでいた。



「ねぇ、クランス、あなたはどうして私を助けてくれたの?」


「ん? どうしたんだ急に?」


 女の唐突な質問に戸惑ってしまう。


「だって、普通なら見捨てるでしょう?」


「まぁ、そうかも知れぬが、私は、助けられる者を見捨てられるほど強くはない。それに、お主は放っておいては死ぬと思ったからの」


「そう…… ありがとう」


 女は微笑みながら礼を言う。


「なに、気にするな。それよりも、いつまでもここに留まっているわけにもいくまい。どこか思いあたる場所はないかの?」


「えっと…… うん、やっぱり何も思い出せないわ」


 女は自分が何者かわからない状態だった。ただ一つ自分名前を除いて。自分の住んでいた場所や家族の事など、まったく思い出せなかった。自分が誰なのか、という記憶がないというのは不安だった。


 その事を思うと涙が出そうになる。


(私はいったい、何なんだろう?)


 そんなことを考えていると、男はまあゆっくりな、と女を見つめ言う。


「焦っても仕方があるまい。最近は魔物も多くなってきておるしな。焦らずこの近辺の町を巡ればいい。それでもわからなければ他も回ってみればいい。私も行くあてもなく彷徨うよりよほど意味のあることだと思えるしな。さあ、もう休みなさい、


 そういうと静かに横になった。

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