第52話 レムサ領領内の森 09

 ノアをエレナの所に向かわせたアベルは蜘蛛の魔物の前に立つ。


(かっこつけちゃったなあ。ま、こういうのも俺の役割かあ…)


と考えながら剣を構える。


 蜘蛛の魔物はアベルに襲いかかってくる。アベルは蜘蛛の攻撃を素早く避けると、そのまま蜘蛛に斬りかかる。


「グ…グア…! ジャマ…を…るな!!」


 アベルの攻撃が当たる直前に蜘蛛の魔物が叫ぶと、アベルの身体が硬直する。アベルは動けなくなり、そのまま糸でぐるぐる巻きにされ、地面に転がされる。

 蜘蛛の魔物はアベルに止めを刺そうと近づく。


「お前…が…来なけ…れば、あの…娘…喰えた…ものを……。まぁ…いい……。どうせ…私の糧に…なるのだ……。それにしても…忌々しい……。まさかこの姿…でも…手こずるとは……。」


(話せるのか??? なんなんだ? こいつ…)


 そんなことを思いながらアベルは拘束を解こうともがき続ける。


 蜘蛛の魔物はそのままアベルに近づくと、爪のような前足を振り上げる。


「グア…アブ…死ね…」


 そう言うと振り上げた腕を勢いよく下ろす!


 その瞬間パリーから放たれた魔法が蜘蛛に命中する。しかしダメージは与えられていないようだ。


(隊長! ここは逃げてください!!)


 そう思いながらアベルはパリーを見る。パリーは目線だけで大丈夫だと伝えると、再び魔法を放つ。蜘蛛の魔物はパリーの方に視線を向けると、すぐにパリーに向かって走り出した。パリーも走り出し、お互いの距離が縮まると、蜘蛛の魔物がパリーに向かって糸を放った。パリーはそれをギリギリのところで避けたが、蜘蛛の魔物はさらに追撃を仕掛けてくる。その攻撃を何とか避けると、再び距離を取る。パリーは魔法を連続で唱えるが、蜘蛛の魔物には通用していないように見える。蜘蛛の魔物は距離を詰めると、鋭い鉤爪をパリーに向けて突き立てようとする。それをかろうじて避けると、蜘蛛はニヤリと笑う。蜘蛛が笑った瞬間、蜘蛛の周りに黒い霧が発生する。


 パリーは先ほど受けた傷が徐々に悪化していく。


(毒か!? このままでは……まずい……)


 そう思ったとき、突然、黒いモヤが周りを包み込む。


「グギ…アブ…ほんとうに…邪魔な…奴だ……が……これで……終わり……だ……」


 パリーはその姿を見て絶句する。目の前にいたはずの蜘蛛の魔物が人型になっていたからだ。


 そして……


 人型の魔獣と化した蜘蛛は、ゆっくりとした動きでパリーに向かっていく。


 その姿を見たパリーは恐怖で体が震える。


 そして、蜘蛛だったものが口から糸を吐き出しパリーを巻き付けそのまま持ち上げると、アベルの横に並べる。


(まずい……意識が……)


 薄れゆく意識の中、蜘蛛の魔獣の声が聞こえてきた。

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