第51話 レムサ領領内の森 08

 リリアナはエレナを抱えながら戦場から少し離れた場所に移動する。すると、エレナが目を覚ましたようで慌てて立ち上がろうとするが、それを制止する。

 そして、事情を説明した後、エレナに尋ねる。


「あの化け物をみて何か思い出したのですか?」


「……蜘蛛です。巨大な蜘蛛が人を……人を襲い喰らっています。おそらくあれが私を襲った魔物でした。あの日、王城で起こったことを思い出しました……」


 エレナは唇を強く噛み締める。


「私は、わたしは…… わたし……」


 エレナは苦しみ始める。


「今は考えないように!! ここが落ち着いてからゆっくりお話を聞かせてください!! それよりも今はあの蜘蛛をなんとかしなければなりません!」


 リリアナはエレナに伝えると、戦場に戻るよう視線を向ける。


 そこにはの魔獣が迫ってきている。


 その光景を見たエレナは震えながらも立ち上がる。

 その姿を見てリリアナも覚悟を決める。


【風よ、敵を引き裂け!!】


 リリアナの放った風刃は人型に命中した。しかし、全く効いた様子もなくこちらに向かってくる。

 リリアナとエレナは顔を見合わせると、急いでその場から離れ再び魔法を放とうと身構えたとき、魔物の後ろからノアの姿が迫っていた。


【火よ、敵を撃て】


 ノアが魔法を唱えると、激しい炎が一瞬にして広がり、それが消えるとそこには焼け焦げた魔物がいた。

 リリアナはその光景を見て驚く。

 今まで魔法を唱えても、こんなに早く魔法が発動することはなかった。


(これは一体どういうこと?)


 リリアナはノアの変化に戸惑うが、まずは目の前の脅威を排除する必要があるため思考を中断する。リリアナはエレナに声をかけると、エレナはゆっくりと歩き出す。

 ノアたちは三人で連携を取りながら、少しずつ黒いモヤの人型を削っていく。

 徐々に動きが鈍くなっていくが、それでもまだ生きている。


 すると突然、黒いモヤが膨れ上がる。それは先ほどまでとは比べ物にならないくらいの大きさだった。その大きさに驚きつつも、攻撃の手を止めずに魔法を放ち続ける。黒いモヤは攻撃を受けながら、どんどん大きくなる。

 そして遂に黒いモヤは本当に人の形になり、黒いローブを着た男の姿になった。

 

 その男は両手を広げて、何かを詠唱している。

 

 次の瞬間、地面が揺れた。

 

 そして、黒いモヤが発生し俺たちを包み込む。


 その時、俺の体が光り始め俺だけがモヤからはじき出される。


 待て!!


 そう思った瞬間、黒いモヤは小さくなり、エレナとリリアナの姿がなくなっていく。


 そして黒いローブの男は一言


「ほぅ、お前は…… 面白い、またどこかで会うやも知れぬな」


 と言い放つとモヤと同じように小さく消えていった。

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