第42話 レムサ 06

 二人は知らなくてもいい。

 これからもこの生活が続き、自分たちが権力を手にすると思っているのだから。


 二人は気づいている。自分たちは奴隷だということを。


 だから今日も私に従うのだ。

 たとえそれがわかっていてもこの力を手放したくない……。

 私の言うことさえ聞いていれば彼らの望むままにこの国の富を集め続けられるはずだと思っている。


(バカな人たち…)


 自身の身体にまとわりつく二人の貴族を一瞥し、彼女は思う。




 そうすればいずれ私の願いもかなうはず……。


 魔道具でこの国が豊かになるのだと誰も疑わない。


 この国がどうなるかなど誰も予想はできない。


 もし気づいても、それを止めることなどもできない。


 彼女にはその力がある……。


 私の力はこの世界では計り知れないものだ。




 彼女が自身で感じている力とはいったいなんなのか?


 その答えを知るものはこの世界にはいない。


 二人を下がらせたカーミラは自分の部屋に戻るとそのままベッドに倒れこみつぶやく。


「もう少しよ……あと少しでこの国は変わる……」


 カーミラの頬に涙が流れ落ちる。

 だがそれを拭うこともせずただ天井を見つめ続ける。

 その瞳は赤く怪しく輝いている。

 そしてその口元には笑みを浮かべていた。

 

 

 カーミラはゆっくりと立ち上がると部屋の中を歩き始める。

 まるでそこに誰かがいるかのように……。

 

 ゆっくりとした足取りでそこへ向かう。

 

 そこには一枚の肖像画があった。

 その絵に描かれているのは一人の美しい女性。髪は長く艶やかな銀色に輝く髪を後ろで一つにまとめており、瞳の色は吸い込まれるような深い赤色。肌の色も白く透き通るような美しさを持っていた。そして何より目を引くのがその服装だ。白いワンピースのような服に赤いベルトのようなものをつけているだけ。そんなシンプルな格好なのになぜか目が離せない。その女性は優しく微笑み慈愛に満ちた眼差しを向けてくる。その女性の足元には、可愛らしい小さな子供が2人寄り添って眠っていた。


 その子供にもカーミラは視線を向ける。


 その子供たちもとても可愛いらしく、見ているだけで心が癒されるようだ。


 カーミラはしばらくその肖像画を眺めていたが、やがて立ち上がり再びどこかへ歩いていく。


 そして、ある場所で立ち止まるとおもむろに手をかざす。

 

 すると、その手がぼんやりと黒い光を放ちはじめる。

 

 カーミラの指先から何かが出てくる。

 

 真っ黒い獣だ。

 

 カーミラはそれをじっと見つめる。すると、その黒い塊は次第に形を変えていき、やがて子犬ほどの大きさの生き物へと姿を変えた。


 それは黒猫だった。その目は赤く、瞳孔も縦長になっている。


 カーミラはその姿を確認するとその黒猫にむかって何かを伝える。

 黒猫はカーミラによって開けられた窓からどこかに飛び出していく。

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