第25話 事件 エレナ 08
ボルソアの町から知らせを受けたアルバン元帥と宰相らが王宮内にある会議室に集まっていた。そこには軍務省の上級幹部たちもいる。限られた人数ではあるが、今回の事件の事を話し合う。エレナ王女が行方不明になってからというものの、軍部内には重苦しい雰囲気に包まれている。
特に、エレナ王女の護衛を任されていた近衛騎士団は、自分たちが何もできなかった事を悔やみ、自分たちが守るべき護衛対象の不在により意気消沈していた。この国の最高戦力ともいえる近衛騎士団ですら歯が立たないような魔物にエレナ王女を奪われた。
近衛騎士団員は皆、自分の不甲斐なさを痛感していた。
重い空気の中、会議が始まる。
最初に軍務省、特別捜査隊キャゼル中将が発言した。
「ではこれより緊急の軍議を始めます。まずは先日襲撃にあったボルソアの町の件について。ボルソアの人口約900名のほとんどが一匹の魔獣の犠牲となりました。調査隊からの報告によりますと、町中で騎士とボロボロの服を着た人物が会話をしている最中、突然男が苦しみはじめその男が魔獣になり、話していた騎士… これは調査の結果おそらく近衛騎士団所属のジグワルド・マティス騎士だと思われますが… を殺害し、そこから無差別に住民に襲いかかったものと思われます。このことから何かしらの方法を用いて人を魔獣に変える手段が存在し、それを使い、わが王国に仇をなすが者が存在していると推測されます。
また、証言の中に「黒いローブ」「見たことのない服」という言葉も確認されており、国内のみならず、他国が干渉している可能性も否定できません」
会議室内はざわつき始める。特に近衛騎士団は続けざまに犠牲者を出すことになりその将たちは叫んだり、顔を赤らめて怒りを抑えている者もいる。
アルバン元帥が手を挙げ周りを沈め、この場にいる者たちに語り掛けるようにゆっくりと言葉を発した。
「今の話を聞く限り、魔獣に変えた方法は不明、そして魔獣の行方も不明。さらに、魔獣化を操れる何者かが存在する可能性があるがどこのどいつかも不明、ということだな。そして黒いローブ、見たことのない服、ということからも他国の介在も考えられるわけだ。 そこでだ。 今回新たに調査を担当する特別部隊にこの事件の調査、そして解決までを任せたいと思うのだがどうだろうか? そして、この部隊の総指揮は私が執ろう」
「よろしいでしょうか?」
と特別部隊副隊長のライルが声をあげる。
「ボルソアの町に関してですが、これを国民に隠しておくことは難しいかと思います。国民にどのような説明を行い、また特別部隊はどのように動くべきでしょうか? 」
「うむ、それは私も考えていた。だが、国民に伝えるとなると、それ相応の準備が必要になる。すぐには無理だな。それに、その前に我々はこの国の治安を守れねばならん。そのためにもまずは、魔獣化した者を見つけ出し討伐することだ。」
「了解しました!」
この事態を重く見た王国議会は、王都に駐在している兵力を国境付近と各都市に移動させることを決定した。この動きに合わせて、各地方の領主たちも兵を出すことになった。もちろん軍も同様だ。特別捜査隊は騎士団、派遣警察騎士団、王国軍、各地憲兵隊で編成し各都市が有機的に連携し、各都市での調査にあたることとする。
アルバン元帥はそこまで言うと、少し間をおいて再び口を開いた。
その表情はいつもより厳しいものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます