第26話 事件 ノア 12

 やっと手がかりをつかんだ。第一発見者のメイドに会わなければならない。オルドゥーズと地の神の像という2つの言葉が事件にかかわっている可能性が高い。


 オルドゥーズ…… この言葉から連想されるのは、オルドゥアズ教、ラステア王国の東に位置するエルキーポ神聖国、この神聖国が崇めている神がオルドゥアズである。


 そもそもこの世界の大陸、ニニラカン大陸にはエルキーポ神聖国のみ存在し、約200年前に4つの国に別れた経緯がある。現在、面積ではエルキーポ神聖国が最大ではあるが経済、産業構造も謎に包まれており、当然王国との国交もなく、オルドゥアズ教も国民の多くは存在すら忘れかけているようなものである。地の神の像にいたっては何のことだか見当もつかない。



 そんなことを考えながら俺は、リリアナとアベルを連れ、第一発見者であるメイドの部屋に向かった。部屋の前に立つと、扉越しに気配を感じた。ノックをして返事を待つが反応はない。俺は再度ノックして声をかける。するとしばらくしてドアが開いた。出てきたのはまだ若い女の使用人だった。俺は彼女に事情を説明する。すると、彼女は俺たちを見て少し驚いた様子を見せた。その後、部屋に通され話をすることになった。

 俺たちが部屋に入るとベッドに横になっていたメイドが叫び始める。


「やっと迎えに来たのか!! 我らオルドゥースの民はこの時を待っていた!! そう、長い長い時間!! もうすぐだ! もうすぐ……」


 というと急に意識を失ったようにベッドに横になり静かになる。


「これは……??」


 俺が使用人に尋ねると、使用人はいつもこの状態で突然先ほど聞いたようなことを繰り返し静かになるのだという。

 そしてこちらから何を問いかけてもまともに答えてくれないのだという。


 俺はメイドに近づき


「地の神の像」


 と囁いてみる。すると彼女は


「そう! ああ。あの翡翠!! あの像は…… 地の神アブソースの像。我々をオルドゥースへと導いてくれる!! ああ…… 素晴らしい!! なんと素晴らしい!!」


 と答え、そのまま目を閉じて横になった。

 そこからは何を聞いても返事はなく、アベル、リリアナと交代しても状況は変わらなかった。アベルには彼女の出生からこれまでの経歴を、リリアナにはエレナの対応を頼み、俺はオルドゥーズについて調査を行うことにした。


 部屋を出る前にもう一度メイドの様子を確認するが、食事もとらず、時折叫んでいるはずの彼女はやつれ青白い顔をしてはいるが、寝息を立てながら幸せそうな表情を浮かべていた。


 宿に戻ると連絡が入っており明日の朝には派遣警察騎士団本体が到着することを知る。

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