第23話 事件 ノア 11

 侍女の名前はアンジーといい、アリシア嬢の世話係をしていた。彼女は事件当日もアリシア嬢のそばについていたらしい。数日前から子爵夫妻は王都の屋敷に行っており、この屋敷にはアリシア嬢以下、十数名がいつものように過ごしていた。日中は特に変わったこともなかったとのことだった。


 一通り日中の出来事を聞いた後、彼女に事件について質問をする。


「あの日、あの時間、あなた以外に誰か部屋に入っていったりしませんでしたか?」


 そう尋ねると、彼女は首を横に振る。


「いいえ、あの時間は誰も入ってきておりません。お嬢様に、もう下がっていいと言われ自室に戻っていましたがそれでも何か物音がすればすぐに駆け付けます。それに、控室はアリシア様のお部屋のすぐ近くです。もし何者かが侵入していれば必ず気づきます」


「なるほど。では、あの天井裏には何があったのでしょう?」


「私には分かりかねます…… でも、お嬢様がお一人の時、何かをしていたような気はいたします」


 やはり天井裏に何かを隠そうとした形跡はあったということか。が、彼女はアリシア嬢が何をしていたのか咎めるようなことはせずにいたらしい。

 俺は重ねて質問をする。


「アリシア嬢があそこに何かを隠していたことは事実ですね? それが何かは?」


「……申し訳ございません! こんなことになるのなら旦那様にも奥様にもお話しておくべきでした…」


 彼女はそういうと泣き崩れた。俺は彼女の肩に手を置き落ち着かせる。

 アンジーが泣き止み落ち着いたところで話を聞くと、あの日、夜中に突然悲鳴が聞こえ急いで駆けつけたところ、血まみれになった令嬢の遺体を見つけたそうだ。最初は何が起こったのかわからず呆然としていたが、先に入っていた(第一発見者の)メイドが天井を見つめ、


「オルドゥーズはやはり…… 地の神の像は……」


 とつぶやきこちらに向きなおした瞬間、ニヤリと笑いそのまま気絶した。その時、メイドの後ろに黒い影が浮かび上がったように見え、恐怖が襲ってきて侍女自身もその場で失神してしまったということだった。

 俺は続けて質問する。

 あの日、アリシア嬢は何をやっていたのか、天井裏にあるものはなんなのかを尋ねた。

 すると、彼女は、お嬢様は何かを一生懸命作っていた気がする、と答えた。

 ただ、それが何だったのかまではわからないという。

 そして、アリシア嬢が亡くなった後、執事によって部屋の中は調べられたが、結局何も見つからなかったということだった。俺は礼を言い、その他の警備担当やメイドたちに事情聴取を行ったが、結果は以前にも聞き取ったものとかわりなく、新しい情報は得られなかった。



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