第20話 事件 ノア 08

 捜査に進展がないまま数日が過ぎ、俺たちは憲兵隊本部の応接室に通される。中には先日の憲兵長の姿もあった。


「あれから進展はありましたか?」


 憲兵長は無言で首を横に振る。


「そうですか。こちらも捜査を進めていますが、あの商人の目撃情報以外進展はありません」


 俺は商人から聞いた男の話を再度共有する。


「ふむ、その男の足取りを追ってはいるのですが、なにせ情報がありませんので……」


 憲兵長も困っている様子だ。俺は一つ気になっていることを尋ねてみる。


「目撃されたのはフードを被った小柄な男で、2回入っているんですよね」


そういうと、憲兵長は


「その情報を基に聞き込みをおこなっておりますが一向に情報が得られません。また、2回の侵入についても屋敷で働いていた者たちの証言を取っておりますが、特に屋敷から無くなったものも確認されず、何もわかっていないというのが現状です」


「現場の状況から考えると、一回目に何か目的があって侵入し、二回目に令嬢を殺害したと考えられますが……」


 2回の侵入にどんな意味があるのか、そこから探ってみる必要がありそうだ。

 しかしそうなると今度はどうやって入ったのかということになる。

 門には常に兵士が立っている。それをくぐり抜けて入ることは容易ではないはずだ。

 しかし犯人が兵士に捕まることなく館に侵入しているという事実を考えると、なんらかの手段を使ったと考えるべきだ。問題はそれがなんであるかということだが…。どちらにしてももう一度現場を検証する必要がありそうだ。

 アベルとリリアナにも相談してみる。


「そうだな。なんで2回も入る必要があったのか。殺害自体が目的なら一回で終わらせるはずだよな」


 アベルも不思議そうに話している。


「私も行きたいです! 以前屋敷にあって、今は無くなっている物の確認もしたいですね!」


 リリアナも乗り気だ。


「では、もう一度行くことにして、屋敷で働いていた人たちへの事情聴取は終わっているはずだけど、再度話を聞く必要があるかもだね。まずは3人で屋敷に向かい、その後、再度事情聴取を行うってことでいこう。エレナひ… エレナは申し訳ないけど明日はここで待機しておいてくだ…… おいてくれ」


「はい。お気をつけて。今、ひ、って言いましたよね? ひ、ってなんですか?」


「いえ、あの、こうやっぱり…… 呼び捨てはどうなのかなぁ、とか思ったりしてですね……」


までいうとエレナは涙を浮かべてこちらをじっと見つめてくる…


「……はい、あの、エレナ。エレナ!! えーっと、二人も…… なんでそんな目で見てるの。さ、さあ! 行くよ!! エレナは留守番お願いね」


 そうみんなに伝え再度事件現場、フィンダード子爵家の屋敷に向かうことになった。

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