第19話 事件 ノア 07

 翌朝、朝食を食べ終え、宿を後にすると、早速アベルと共に例の屋敷近くの商人のもとへ向かう。

 商店で身分証を提示し中へ入る許可をもらうと俺たちは店の奥へと案内される。

 応接室らしき部屋に通されると、そこにはすでに一人の男が座っていた。

 男はガドというらしく、このあたりで商売をしているらしい。年齢は40歳くらいだろうか、かなり太った体型で、顎髭を蓄えている。

 俺達はソファーへ腰掛けると挨拶を交わす。

 

「何を聞きに来たんだ? もう話すことは何もないぞ」


「申し訳ありません。我々は王都からきてこの街で起きた殺人事件について調査しているんです。申し訳ありませんがもう一度教えていただけないかと思いまして」


「ふんっ! 何度同じことを聞かれてもだ。まったくそれでなくとも事件のせいで客足が落ちてるってのに……」


「申し訳ありません。しかし我々も困っていて」


 アベルが食い下がる。


「うるさい奴らだ。どうせ俺が嘘でもついてると疑ってるんなら、いくら金を積まれようとも話さん!」


「いえ、そんなつもりは」


 アベルは焦りながらも否定する。が、商人の顔や態度でこれはひょっとしてという思いになる。


「それにあの館で殺されてたのは貴族の令嬢だ。おれが知ってることなんてあるわけないだろう?」


 俺はスッと銀貨を一枚手に持ち、憲兵に聞いたこと、何かが館に入っていったことを尋ねる。ガドは驚いた表情を浮かべたあと、 ニヤリと笑みを浮かべた。そして事件について語り始める。


「あの日俺はいつものように店で品物を売っていた。すると店の前の通りを男がスーッと通り過ぎたのさ。そして屋敷の中に入ると、しばらくしてまた戻ってきた。そしてまた館に入っていったんだよ」


「その男の特徴は?」


「フードを被っていて顔はよくわからなかった。背格好はかなり小柄だったと思う。まぁ、あんた達と同じくらいかな?  だがその程度の特徴じゃあな」


「そうですか、2回…… ありがとうございます」


 俺は礼を言うと立ち上がる。

 アベルも続いて立ち上がったところで、ガドに呼び止められる。


「おい、ちょっと待て。お前たち、この事件を調べてるのは王都の指示なのか?」


 俺は黙っている。


「もしそうなら俺にも一枚噛ませろ。俺は王都の貴族に貸しがあるんだ。上手くいけばでかい儲けになるかもしれねえ」


「申し訳ないが、それはできない。これは我々の問題だ。貴殿に迷惑をかけることはできない。協力に感謝する」


 俺はきっぱりと断る。


「ちっ、つまらん奴だ。まあいい、またなんかあったら来いよ。力になってやる」


 俺たちは礼を言い店を後にした。

宿に戻ると俺たちはリリアナたちに事情を話す。


「そうですか、やはりなかなか手掛かりは見つかりませんね」


 リリアナも残念そうにしている。


「とりあえず明日も聞き込みに行くが、リリアナはエレナと報告書の作成を頼む」


「はい、お気をつけて」


 翌日も聞き込みを続けるがやはり有力な情報は得られなかった。

 さらに数日、聞き込みを行うが有力な情報はなく時間だけが過ぎていった。

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