第16話 事件 エレナ 04

 『エレナ王女特別捜索隊』と名付けられたこの部隊は、近衛騎士団オード・シュバルツを筆頭に、ジグワルド・マティス、ホリーザ・ロージェルの3名で編成され、この3名は第3王女が幼いころから側近として仕えていた者たちである。

 また、この部隊は軍務大臣でもあるアルバン元帥の直轄となり軍務省内でも存在を秘匿されごく一部の者たちにしか存在が知られていない。


 エレナ王女がいなくなってから2週間が経過した。

 捜索隊は毎日のように街や村を巡り聞き込みを行っていたのだが、未だ有力な手がかりを掴めずにいた。

 そんなある日の事であった。


 3名はそれぞれ王都周辺、西の国境付近の町コルラダ、北東の国境付近のバイランド方面に別れ王女の足取りを追うことになった。


 北東方面を担当したジグワルド・マティスは街道に沿って王都を出発し、南西にあるボルソアの町に来ていた。ボルソアは人口900人程度の町で王都から150キロに位置する。

 この町で聞き込みを行っているとボロボロを着た1人の男がふらふらと目的もなくさまようように歩いている。

 年齢は30代後半といったところだろうか……。

 その男の顔には見覚えがあった。そう、短い期間であったが以前エレナ様に仕えていた人物だ。執事見習いということで数カ月働いていたがいつの間にかいなくなっていた!!

 確か名前は…… そうだ! ガストンだ。

 彼がどうしてここにいる??

 もしかして、エレナ様の行方を知っているのか!?

 私は彼に話しかけた。

 彼は私が誰なのかわからないようで怪しんでいる様子だったが、私がエレナ様の知り合いだとわかると話を聞いてくれた。

 彼の話では、彼は今から2か月前に突如姿を消したらしい。理由は覚えていないという。

 そして、彼はエレナ様に命を助けられたと言っているが、これも詳細は思い出せないという。

 そしてこれまた理由はわからないが、エレナ様に会うために王宮に向かっているという。

どうしたというのだろう、そんなことがありえるだろうか……。

どう判断すべきか逡巡していると


「実は、俺はあの日の記憶がないんです……」


「えっ?」


「気が付いたらこの街の路地裏で倒れていて、誰かに助けられたようなのですが……」


「何かに襲われたとかではないのですか?」


「はい。身体には傷一つありません。ですが、その記憶が全くないのです……」


「そうですか……」


「ところで、あなたはエレナ様のお知りあいの方ですよね? お願いします!!エレナ様の行方を教えてください!!」


 彼は私に向かって必死に訴えてきた。

 だが、いくら頼まれても私たちにもわからなければ教えることなどできない。

 それにしても彼に一体何が起きたというのだ……。

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